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ギルガメッシュ叙事詩考
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ギ ルガメッシュ叙事詩考

ギルガ メッシュ叙事詩考 3
『旧約聖書』および『ハンムラビ法典』との比較
 旧約聖書創世記第6~9章は良く知られた『ノアの箱舟』の物語である。その要旨をまとめる。アダムとイブの子セツの8代後、ノアの時、神は人の悪・暴虐 が地にはびこるのを見て、「人間を地上からぬぐい去ることにしよう」と言って40日40夜の「天の窓からの雨」を地上に降らせて洪水をおこす。「こころに かなう人」であったノアには長方形の箱舟を造らせ、家族とすべての生物の雌雄をのせて150日間の洪水を生き延びさせた。洪水はさらに40日地上にあり、 地上にいたすべての生き物は人も家畜も鳥もみな地から拭い去られ、ノアと箱舟にいたものだけが残った。水は150日地上にみなぎったが神が地上に風を吹か せ、さらに150日後には水が減り、箱舟はアララト山の頂にとまる。40日ののち、ノアは箱舟の窓を開けてからすを放ち、さらにはとを放つが、とどまる所 がなく、はとは帰ってきた。7日後またはとを放つとはとはオリーブの葉を持って帰り、さらに7日後はとを放つとはとは帰ってこなかった。洪水から1年と 10日後、地はまったく乾いた。ノアが神に燔祭=ホロコースト=を捧げると神は「わたしはあなたがた及びあなたがたの後の子孫と契約を立てる。またあなた がたと共にいるすべての生き物、あなたがたと共にいる鳥、家畜、地のすべての獣、すなわち、すべて箱舟から出たものは、地のすべての獣にいたるまで、わた しはそれと契約を立てよう。 わたしがあなたがたと立てるこの契約により、すべて肉なる者は、もはや洪水によって滅ぼされることはなく、また地を滅ぼす洪水は、再び起らないであろう」 と言う。
 『旧約聖書』はヘブライ人のバビロン捕囚とペルシャ王キュロスによる解放とイェルサレムへの帰還ののち、広くメソポタミア文明に伝えられていた様々な伝 承、神話などをモチーフとして長い時間を経て編纂されたものとされる。「ノアの箱舟」も『ギルガメッシュ叙事詩』などメソポタミアで伝えられた『大洪水』 にかかわる伝承を素材として新たに創作された物語であろう。しかし両者には大きな違いがある。洪水の期間が叙事詩では6日間であるのにたいし、ノアの物語 ではおよそ1年間に大幅に拡張されていること、洪水によって「地から拭い去られた」人々への共感の視点が叙事詩では多神教の神々に仮託されているが、旧約 では皆無であること、それゆえに叙事詩ではその記述が大洪水への警鐘という意味を持つのに対して、旧約では大洪水を神が与えた罰として受容し、唯一神ヤハ ウェへの帰依と契約を促す物語に変換されていることである。また、旧約の洪水の描写には「天の窓からの雨」とあるのみで淡々と一年の経過が記されており、 リアリティに乏しい。これは旧約のこの部分の記録者、編集者に大洪水による甚大な被害の経験、記憶がなく、人々の被害への共感なしに物語を構成する立場か らもたらされたものであろう。多神教と唯一神教の根本的な相違、『神との契約』という理念からもたらされる「選民思想」というユダヤ教の特色など、考察さ れるべき本質的なテーマは少なくない。

『ハンムラビ法典』の津波の条項
 ハンムラビ法典は1901年イランのスサで発見された玄武岩の碑にアッカド語で記載され、282の条文からなる碑文である。碑文の成立は古バビロニア王 国  「バビロン第1王朝」(B.C.1894年~B.C.1595年ごろ)の時代であり、それはセム系アムル人によってシュメール人とセム系アッカド人の征服 により建国された王国である。
  6代目ハンムラビ王 (在B.C.1724~1682ころ) はメソポタミアを統一して首都バビロン=Babilim「神の門」=を建造した。その法典は紀元前1700年ころ の制定であり、282条からなる条文はシュメール法の集大成とされる。従来この法典は「同害復讐法」「身分法」という性格が強調されてきた。現在発行され ている高等学校『世界史B』の教科書の多くもその点を強調している。たとえば次の条項。

200、もし人が彼と同格の人の歯を落とした時は彼の歯を落とす。
201、もし賎民の歯を落とした時は、銀1/3マヌーを支払う。

 これらの条項から読み取れるように、この法典には「身分法」・「同害復讐法」という性格が確かにあるが、他面では弱者の権利擁護という側面も各条文に読 み取れるし、法典の後文にはつぎのような文章がおかれている。
国土に繁栄をもたらし、家庭での安全を保障し、かき乱す者を許さず、王(ハンムラビ)の保護 のもとで、平和に暮らす住民を慈しみ、強者が弱者を虐げないよ うに、寡婦や孤児を守るため、正義を国土に示し、論争を収め、ずべての負傷者を癒すために、これらの貴重な言葉を石の記念碑に記載させた。

 これはこの法典が、旧来の「目には目を、歯に歯を」という古代の同害復讐という慣習や身分制を法制化しただけのものという理解から、弱者、孤児、寡婦の 救済、保護という近代法的性格を有するものへと訂正させる内容を持つことを示している。ここでは具体的には触れないが、282条の中でそうした権利擁護の 性格むを持つ条文は決して少なくない。また、あらたな理解では、「目には目を、歯に歯を」と言う規定は罪と罰の均衡を維持し、過大な報復をさけるという役 割や、「罪刑法定主義」の性格を有するものとしても理解されてきている。ここでは一例として子供の保護に関してつぎの条項を示す。


168、もし人が彼の子を追い出そうとして裁判官達に「私の子を追い出します」と言った時 は、裁判官達はその事情を審査し、も し子が相続人の地位より追い 出すのがよい重大な責が無い時は、父は彼の子を相続人の地位より決して追い出すことがない。

 さて、この今から3700年ほど前に制定された法典に、津波など自然災害への対応が記されていることは注目に値する。

45、もし人が彼の原を地代の為に耕作人に与えて彼の原の地代を受け取り、その後、原 に気候の神アダッドが氾濫しあるいは津波が凌いだ時は損害は正しく耕作人のものである。
 
48、もし人に利息債務があり,彼の原に気候神アダットが氾濫し、あるいは津波が凌 いだ時は,あるいは水が無いため穀物が出来なかった時は,その年度分は穀物を彼の利息債務の主に返さず,彼の証書を変更し,加算しない。

 これらは氾濫、津波、旱魃による耕作地の被害に対する対応と債務返済の猶予という一定の補償の確保と読み取れる。損害を土地所有者ではなく耕作者に負わ せると読める45条は耕作者には不利だが、いずれにせよ3・11以後改めてこれらの条項を読むと自然災害への一定の法的な備えが当時から試みられていたこ とが理解できる。
 以上、メソポタミアにおける『ギルガメッシュ叙事詩』と『ハンムラビ法典』を津波など大規模自然災害との関わりという視点で考察した。特に叙事詩はその 後同地域で興隆した様々な民族の言語に訳されて継承されてきたことからも、「大洪水」が人類にとって如何に重要なテーマであるかを語っているように思われ る。古代世界についてより深く研究・検証が行われることは、現代の私たちが抱えている様々な問題をより深く理解し、その解決法を考える上で大切な手段にな りえる。現在の世界の諸課題を解決するために過去を検証するという視点がますます大切になるように思われる。
























    














                                                                                                                                                                 
  
     





























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