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ギルガメッシュ叙事詩考
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ギ ルガメッシュ叙事詩考

ギルガ メッシュ叙事詩考 1
 一昨年の東日本大震災を受けて、それにより発生した福島第一原子力発電所事故も含め、国際的な規模で大規 模自然災害の脅威と堅 牢に見える近代技術文明及び 現代社会の脆弱性、過酷事故への想定と対策の甘さなどについての反省、捉えなおしの動きがあり、現在の世界は私見ではひとつの文明史上の転換点に遭遇して いるように思われる。ここでは、古代からの人類が経験してきた大規模自然災害への警告ともとれる事象を取り上げ、具体的には『大洪水』にかかわる事柄とし て文明発祥の地とされるメソポタミアにおける『ギルガメッシュ叙事詩』を中心に、『ハンムラビ法典』『旧約聖書』のノアの箱舟物語と比較しながら考察す る。

『ギルガメッシュ叙事詩』の『大洪水』
  ギルガメッシュは古代の「シュメール王名表」でシュメール初期王朝時代のウルク第一王朝5代目の王(紀元前2600年ころ)と比定され、また「ウルク の城壁を建設した」王として伝承される。ウルクは現イラク南部サマーワの遺跡であり、最も初期の楔形文字が発見された都市でもある。多神教崇拝のメソポタ ミアにおけるウルクの都市神は女神イナンナ(アッカドではイシュタル)である。また、「周壁もつ」と「広場ある」がともに都市ウルクの形容詞とされてい る。
粘土板12板で伝えられるこの叙事詩の初期の伝承は紀元前3千年紀末にシュメール語で成立し、のちにこの地域を征服した民族の言語あるアッカド語、ヒッタ イト語、アッシリア語などに継承されて粘土板に記録され「叙事詩」として完成した、と考えられる。
叙事詩はアッシリア帝国の後期の首都ニネヴェで19世紀中葉に発見された2万数千点の粘土板から1872年英人ジョージ・スミスが「大洪水」の話を発見、 紹介して知られるようになった。全体は12板からなり、主人公ギルガメッシュは先王ルガルバンダと女神ニンスン(イナンナの妹)の間の子で、「彼の三分の 二は神、三分の一は人間」と、半神半人として描かれる、ウルクを126年間統治した王であり、12の書板ごとに様々な冒険譚が語られている。ギルガメッ シュの冒険譚の後半では盟友エンキドゥの死により自ら死すべきものと悟り永遠の生命を求めて彷徨い、かつて大洪水で滅びた都市シュルッパク(ファアラ遺 跡)の洪水を方舟を造り生き延びて永遠の命を手に入れて神となったウトナピシュティム(命を見た者の意。シュメール版ではジウスドラ)を訪ね、彼がギルガ メッシュに語るのがこの第11の書板「大洪水」物語である。
シュルッパクは伝説的な大洪水(紀元前2900年頃と推定)以前の5つの都市の最後の都市と考えられる。大洪水の際ジウスドラ=ウトナピシュティム(アト ラ・ハシース)はエア神の神託により船を作り家族、動物を乗せて生き残ったとされる。以下引用。
ギルガメシュはウトナピシュティムに嘆願した。
「不死の生命をもつあなたの肢体は私と同様です。私の目はあなたに向かって注がれています。私の腕はあなたに向かって差し伸べられています。どうか話して ください。あなたがいかにして神々の集いに立ち、不死の生命を探し当てたのかを」
彼の懇願に負けたウトナピシュティムは、口を開いた。
「隠された事柄をお前に明かそう、神々の秘密をお前に語ろう・・・・お前も知っているシュルッパクの町は、ユーフラテスの河辺にある町。その歴史は古く、 そこには神々が住んでいた。
が、偉大な神々は洪水を起こそうとした。そこにいたのは彼らの父アヌ(天神)、彼らの顧問官・英雄エンリル(地の男神)、彼らの式部官ニヌルタ(狩猟・戦 闘の神)、彼らの運河監督官エンヌギ。ニンシクすなわちエア(水の男神)もそこにおり、彼らとともにいた。しかし、彼(エア神)は彼らの言葉を葦(あし) 屋に向かって繰り返した。
葦屋よ、葦屋よ。壁よ、壁よ。葦屋よ、聞け、壁よ、悟れ。
シュルッパクの人、ウバラ・トゥトゥの子よ、家を打ち壊し、方舟を造れ。
持ち物を棄て、生命を求めよ。
生命あるもののあらゆる種を方舟に導き入れよ・・・

 ウトナピシュティムは、エア神の言うとおりに町の長老や職人に理由を言わず丸め込んで方舟(60メートル 四方)を造らせた。そしてすべての生き物の種を 方舟に積み込み、さらに「持ち物を棄て、生命を求めよ。」の言いつけにそむき、すべての銀と金、最後に家族、親族、すべての技術者を乗せる。朝方シャマ シュ神(太陽の男神)が小麦と雨を降らせ、ウトナピシュティムはそれから方舟の戸を閉じる。以下引用。 その時がやってきた。
暁が輝き始めたとき、天の基から黒雲が立ち上った。
アダド神(天候の男神)は雲の中から吼え、シャラト神とハニシュ神(ともに嵐の布告使)がその先駆けとなった。エルラガル神(冥界の神)が方舟の留め柱を 引き抜き、ニヌルタ神(戦いの神)が堰を切った。アヌンナキ(神 々の集合)は松明を掲げ大地を燃やそうとした。
アダドの沈黙により全地が暗くなると、続く雄叫びで全地は壺のよ うに破壊された。終日暴風が吹き荒れ、大洪水が大地を覆った。戦争のように、人々の上に破 滅が走った。彼らは互いに見分けもつかなかった。
神々も大洪水を恐れ、アヌ神の天に昇ってしまった。神々はうずくまった。イシュタル(愛の女神) は絶叫し、嘆いた。
「いにしえの日が、粘土と化してしまったとは!私が神々の集いで禍事を口にしたからか!どうして禍事を口にしてしまったのか!
人間を滅ぼすために戦争を命じてしまったのか!私が生んだ、わが 人間たちが、稚魚のように海面を満たす・・・」(最後の部分は別の意味の翻訳もある。「人 間たちを生み出したのは、この私なのに。魚の卵のように彼らは海に充ち満ちたのに」(ちくま学芸文庫版 訳矢島文夫)
アヌンナキも彼女とともに泣いた。神々は嘆き、食物さえとらなかった。六日六夜、大洪水と暴風が大地を拭った。七日目、暴風と大洪水は戦いを終わらせた。 大洋は静まり、悪風(イムフラ)は治まり、洪水は退いた。             (下線は引用者)

 以前この叙事詩を読んだ際には腑に落ちず、またあまり注目しなかったのが下線部分である。たとえば、大洪水のとき火災が発生することが理解できなかった し、『全地が壷のように破壊』『魚のように人間が海面を満たす』とはどういうことなのかもイメージできなかった。しかし一昨年の3・11大震災において東 京でも激しく長い揺れを体験し津波が家屋、自動車をつぎつぎに飲み込んでいく模様を映像で見て、巨大地震と大津波の恐ろしさを理解したのち再びこの部分を 読むと、様々な神々に託してはいるが、大規模自然災害の惨禍がリアリティをもって描写されていることに気づく。2011年3月11日津波に襲われた東北地 方沿岸部各地で流出した燃料・オイルなどにより大規模な火災が発生し、夜を徹して燃え続けたのである。津波の前の地震で木造家屋は倒壊し、巨大津波にさら われた人々は現在も多くが行方不明となっている。
 メソポタミア文明はティグリス・ユーフラテス川流域で栄えた古代文明である。それを生み出したシュメール人はいまも民族系統が不明な人々であるが、その 都市国家ウル、ウルク,キシュなどは伝説の『大洪水』で五つの古代都市が消滅したのちティグリス・ユーフラテス川下流域で形成され、それらの都市はいずれ も城壁を備え、ティグリス・ユーフラテス川上流のアナトリア東部の山岳地帯の雪解け水による定期的な氾濫で人類最初の灌漑農耕が営まれたとされている。周 辺は砂漠であり、豊かな文明地帯に遊牧民が侵攻を繰り返し、それを防ぐために都市に城壁が築かれた、とするのが歴史学の定説である。私自身もこれまでこの 河川氾濫が叙事詩の『大洪水』の原因であろうと理解していた。しかし、それぞれ一行ではあるが、「全地は壺のように破壊」とは巨大地震を、洪水が退く過程 での「大洋は静まり」は巨大津波を思わせる記述ではないか。ウルクの古い地層には実際に洪水で浸食された痕跡が発見されている。この『大洪水』は地震と津 波によるものではないか?
 そのことはのちに再考するとして、叙事詩は次のように続く。
光が地上に射した。
沈黙があたりを支配していた。
全人類は粘土に戻ってしまっていた。
私はそれを見て、泣いた。
あたりを見回すと、12ベール(1ベール=10.7km)のところに土地が見えた。
方舟はニムシュ(あるいはニツィル、ニシル=アッシリア北西の山?)の山に漂着し、止まった。
七日目になって、私は鳩を放した。鳩は飛んでいったが、戻ってきた。休み場所が見当たらなかったのだ。
私は燕を放した。燕は飛んでいったが、戻ってきた。休み場所が見当たらなかったのだ。
私は烏を放した。烏は飛んでゆき、水が退いたのを見てついばみ、身繕いし、引き返してこなかった。                          
そこですべての鳥を四方に放ち、山の頂を前にして供儀をささげた。
                                            (つづく→2




















    














                                                                                                                                                                 
  
     





























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