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2022年12月30日
随分溜まった日記がわりに。
 東京から帰って16日は浸かり納めに岡本い蔵のあとうはらの湯に行く。不在時録画の国際ニュースでフランス2はロシアによる違法な市民とインフラへの攻撃が続くなかウクライナで住居や施設の修復の様子、電気が途絶えた小学校のランプでの授業、スペインTVEは飼い犬の世話のために破壊された町に留まる高齢者を、英BBCは電気もガスも途絶えたキーウなどで地下鉄構内に退避し、あるいは水を求めて雪の公園で並ぶ市民そして病院の様子を、ドイツZDFは墓地で営まれる戦死したウクライナ兵を悼む肉親と同僚らの悲しみに満ちた様子を伝える。これらはすべてプーチンという歪んだ世界観と保身に塗れた元KGB将校とそれを支持する者たちの蛮行によるもの。
 18日西宮北口siosaiでお昼をいただき、ガーデンズで食材買って帰宅。20日報道1930は「防衛費GDP2%」に固執する岸田政権までのこの国の外交予算と職員数が、英米などに遥かに劣っていることを伝える。
 小樽から帰ってやはり録画で仏2はクリスマスでもロシアの侵攻による死者を弔うウクライナのひとびとの様子を伝える。
 28日神大を抜けて開始からすぐ満席のil ventoでお昼をいただき、天神公園を経て新しく見つけた阪急御影駅前から住吉方面行きのバスで再度うはらの湯を訪ねる。
 昨日は巣篭もり、遅ればせながらそして久しぶりに夜2005年の邦画「大停電の夜」を見る。戦争ではなく流星による停電で東京の裏通りのバルに集う人びとの物語が、蝋燭の灯でなんとも心あたかく描かれている。
 今日は食べ納めで栄町通ALBARでマリナーラ。界隈を三宮に戻ってピゴの店で食パンを買い、せっかくなのでなぎさの湯に浸かり食材買って帰宅。コロナ禍や災害対応拠点の神戸赤十字病院近くの紅葉は、建物が風と日射を遮るためか年末も色づいたまま。今年もあと1日、夕方から風は冷たい。
                

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2022年12月27日
「私自身に関していえば、法に触れるようなことは何1つ無かったということも事実」秋葉復興相
「信念を貫きたいと思う一方で、内閣の一員として迷惑をかけるわけにはいかないという、そういう思いもいろいろありまして、総合的に判断してこのタイミングで辞表を提出いたしました」杉田総務政務官
「私自身の任命責任について重く受けとめております。政治の責任を果たすことをもって、その職責を果たしていきたい」岸田首相
 秋葉復興相は去年の衆院選期間中に旧統一教会関連「平和連合」の集会に出席、次男が秋葉の名前を記したたすきをかけ選挙運動をしていた「影武者」疑惑と公設秘書が報酬を受け取って選挙運動をしていたとする疑惑、妻や母、義理の兄に事務所の賃料1400万円を支払ったことを追求されて辞任したのであり、「法に触れるようなことは何1つ無かった」は全くの虚偽。杉田も自身の性的マイノリティーやアイヌ民族への犯罪的な差別発言を全く反省していない。
 このような極めて不適格な人物を閣僚や政務官に任命した本人は、ただ「任命責任」を四回も語るだけで責任は取らない。こんな政治家にまともな政治ができるわけがない。今日の報道1930に登場して、笑いながら閣僚辞任の理由と自らの「責任」、原発再稼働・新増設と敵基地攻撃能力への転換をなんとも拙く「説明」。この人物はもはや広島出身、宏池会所属の恥晒しでしかない。総辞職あるのみ。
《政治資金の問題などが指摘されていた秋葉復興相が辞任したことを受け、岸田首相は「任命責任を重く受けとめている」と述べました。
岸田首相「私自身の任命責任について重く受けとめております。(今後)政治の責任を果たすことをもって、その職責を果たしていきたい」
秋葉復興相の辞任は事実上の更迭で、閣僚の交代はおよそ2か月の間に4人目です。後任には、渡辺博道元復興相が起用されました。
岸田首相はさらに、内閣改造を行うかについて「年末年始は考えていない」と否定しました。
一方、ブログなどに差別的な投稿をしていた杉田総務政務官も辞任しました。
杉田総務政務官「信念を貫きたいと思う一方で、内閣の一員として迷惑をかけるわけにはいかないという、そういう思いもいろいろありまして、総合的に判断してこのタイミングで辞表を提出いたしました」
岸田首相は、2人の交代で体制を立て直したい考えですが、与党内からも「後手後手だ」との批判もあり、求心力が回復するかは不透明です。
一方、立憲民主党の泉代表は、岸田首相の任命責任を追及していく考えを示しました。
立憲民主党・泉代表「総理の任命責任、また、身体検査が不十分であった。岸田政権はもう、崩壊状態と言っていい。岸田総理の任命責任とは何なのか。そろそろ責任が問われなければいけない」
国民民主党の玉木代表は「遅いという印象だ。辞めて済む話ではなく、説明責任は果たしていかなければいけない」と指摘しました。》




2022年12月27日
「自由だから」「大きな声を出してもいいから」「圧がない」「先生でも親でもない大人がいるから」「公園で子どもは遊べない」「図書館は気兼ねする」「怒られない」「大人もストレスあるのはわかるけど、少しは子どもの気持ちをわかれよって思う」
・社会のあちこちで、子どもの犠牲で成り立っていることがあります。保育園の送迎バス内に取り残されること。先生の忙しさでいじめに気づいてもらえないこと。公園で静かにしていなくてはならないこと。統廃合で家に近い学校がなくなること。
・世の中のお金の使い方の対象として子どもはいつも後回し。保育士や先生がもっといたら、公園が子どもの自由な居場所だったら。子どもは、もう十分頑張っているのに、もっと頑張れって大人は言うのです。
 コロナ禍の3年、子どもたちに学校では給食時に「黙食」を強いて合宿、遠足、修学旅行などは取りやめながら、大人は料理店で大声で話し高齢者グループも一部かもしれないが旅先で騒々しい。子育てや教育への予算は後回しで、沖縄などへのミサイル配備は優先。
 子供の暮らしや思いを尊重しない政治と社会は、同時に国民の暮らしや権利そして命を尊重などしない。「国民を守る」とは、まず弱きもの、小さきものを尊重することからしか始まらない。この投稿者のような方に、都知事や首相をやっていただきたいものだ。
(声)児童館で聞く、子どもの息苦しさ 《無職 佐藤くみ子(東京都 74)
 週に1回、児童館で「中高生の学習会」をやっています。7〜8人の子どもが集まる居場所のような所。私たち3〜4人の大人が見守る中、勉強する子、おしゃべりする子、相談を持ち込む子、いろいろです。
 児童館に来る理由を尋ねたら、「自由だから」「大きな声を出してもいいから」「圧がない」「先生でも親でもない大人がいるから」「公園で子どもは遊べない」「図書館は気兼ねする」「怒られない」……。子どもの息苦しさが伝わってきました。「大人もストレスあるのはわかるけど、少しは子どもの気持ちをわかれよって思う」との声も。でも、普段は黙って我慢しています。
 社会のあちこちで、子どもの犠牲で成り立っていることがあります。保育園の送迎バス内に取り残されること。先生の忙しさでいじめに気づいてもらえないこと。公園で静かにしていなくてはならないこと。統廃合で家に近い学校がなくなること。
 世の中のお金の使い方の対象として子どもはいつも後回し。保育士や先生がもっといたら、公園が子どもの自由な居場所だったら。子どもは、もう十分頑張っているのに、もっと頑張れって大人は言うのです。》



2022年12月27
「市民の間で動揺が広がっている。自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力を持つ長射程ミサイルを石垣島に配備することを到底容認することはできない。十分な説明のないまま進めることがないよう強く求める」19日 石垣市議会(我喜屋隆次議長)
「敵基地攻撃能力を保有できないというのがこれまでの政府、国の姿勢だと認識している。軍事力の増強による抑止力の強化がかえって地域の緊張感を高め、不測の事態が生じることを非常に懸念している。米軍基地が集中してるがゆえに、沖縄がその有事の攻撃目標になることはあってはならない。独立国家である日本に対して、外国の軍隊がいつまで駐留するのかという根本的な問題がなかなか語られていないことが問題だ。日本からそのアメリカ軍を退去させていくことがあれば、専守防衛という形で自衛隊の存在は認められていいのではないか」23日 玉城デニー知事
 岸田政権が反撃能力を有する長射程地上発射型12式地対艦ミサイル(SSM)を先島諸島や沖縄本島の駐屯地に配備を検討していることに反対する石垣市議会の意見書と、玉城沖縄県知事の批判と問いかけ。
 平和憲法に根底から違反するこのようなミサイル発射基地の存在は、間違いなく周辺住宅地とともに相手国によるミサイルや空爆攻撃の対象となり、住民に甚大な被害をもたらす。これは第二次大戦において日本軍兵士以上の一般市民の犠牲者を出した沖縄戦と同じ。敵基地攻撃と原発新増設を同時に進める、カルトと癒着した自民党岸田政権には国民の命と暮らしを本当に守ろうという政策も理念も意欲もない。
 この国にまともな未来を築くには、この石垣市議会のように野党は結集して自公政権を打倒するしかない。
《政府が安保関連3文書改定で反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を明記したことを受け、石垣市議会(我喜屋隆次議長)は19日、来春開設予定の陸上自衛隊駐屯地に反撃能力を持つ長射程ミサイルを配備することは「到底容認できない」とする意見書を野党、中立の賛成多数で可決した。
意見書は野党の花谷史郎氏が提案。石垣島への自衛隊配備に当たり、駐屯地に配備されるミサイルは迎撃用で、専守防衛の配備という説明を防衛省から受けてきた、と指摘した。
防衛省が長射程化を進めている地上発射型の12式地対艦ミサイル(SSM)を先島諸島や沖縄本島の駐屯地に配備する方向で検討しているとの報道を受け、突然の動きに「市民の間で動揺が広がっている」と批判。
その上で「自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力を持つ長射程ミサイルを石垣島に配備することを到底容認することはできない」と明言。「十分な説明のないまま進めることがないよう強く求める」とクギを刺した。
反撃能力保有について「近隣諸外国を必要以上に刺激するおそれ」「憲法違反の可能性も指摘されている」と疑問視した。
与党からは「自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力」という意見書の文言に対し「日本が緊張状態を作り出しているわけではない」(石川勇作氏)「認識が誤っている」(高良宗矩氏)などと異論の声が相次いだ。
一方、中立会派「未来」の箕底用一氏は「国防に関しては理解を示す立場だが、長射程ミサイル配備を進めるにあたっては、しっかりと地方議会、地方議員にも説明されるべきだ」と意見書に賛成した。採決では野党と中立11人が賛成、与党8人が反対した。与党の仲間均氏は病欠した。
長射程ミサイル配備に関し「安保関連3文書改定による石垣島を含む先島諸島等への影響について、情報公開と住民への十分な説明を強く求める」とする意見書も全会一致で可決した。与党・公明の平良秀之氏が提案した。》


2022年12月25
小樽は昨夜いっとき雨で朝から湿った雪。
美味しい朝食と街中と思えない露天に浸かり、ぬかるんだ道を北一硝子往復。no1倉庫でヴァイスと昼を食べ、運河倉庫でコーヒーをいただきjrで千歳に向かう。石狩湾は波高く荒れていたが、札幌を過ぎて青空も見えた。
神戸行きスカイマークは雲海を超えて夕陽を追いかけ、雲の切れ間に洞爺湖や福島?の海岸そして淡路島を見ながら神戸着。こちらは雨でやはり寒い。


2022年12月24
札幌3日目。
雪景色のなかの朝食と展望露天の後、土曜の滑りはやめて9時過ぎの札幌行きバスで小金湯に向かうが、ネットで確認すると営業は10時半から。バス停をそのまま乗り過ごすが、黄金湯の柔らかな硫黄泉に勝るものは思いつかず、途中で引き返し訪ねる。なんと目当ての川沿いの古風な松の湯は営業9時からだった。いかにも珍道中。
川沿いの静かな硫黄の露天を堪能してお昼もいただき、真駒内経由中島公園から大通りまで歩いてプロントで一休み。
jrで小樽に向かうと石狩湾は波高し。
運河沿いの宿ふる川で町中と思えない露天に浸かり、小樽ビールに行くと土曜クリスマスイブで混み、なんとか湯上がりを、さらにふじ鮨を訪ねて閉店間際に三年ぶりに寿司をいただく。帰路一時雨、小樽バインでやはり閉店間際にコーヒー。どうにか宿に戻る。


2022年12月23
定山渓2日目朝から雪。宿の日替わりの湯に行くと、こちらは豊平川沿いの露天が入れた。
札幌発国際スキー場へのバスは30分遅れ、しかも補助席一つだけ空いていてどうにか乗れた。韓国などアジアからのお客が多い由。
国際も一日中降り頻る雪の中で初滑り。4時のバスで定山渓に戻る。明日も国際の予定だったがバスに乗れないかもしれず、板など荷物はスキー場から復路で送る。
宿の温泉もレストランも小さな子を連れた家族で賑わう。



2022年12月22
早朝のスカイマーク便で厚い雲が覆う列島を神戸から千歳まで。
札幌の旧庁舎はまだ修繕中で、近寄って見ると絵だった。時計台まえの店でお昼をいただき、大通り公園のミュンヘンクリスマス市でホットチョコのあとバスで豊平峡を訪ね、露天に浸かる。
宿は去年と同じ定山渓ビューホテル、豊平川沿いの眺めもいい露天に行くと、なんと老朽化で閉鎖中。まあ、こちらも老朽化してるのは同じ。年末クリスマス前の賑やかな食堂で夕飯。
今日は寒波は一段落か、明日からはまた寒くなる予報。



2022年12月18日
「言い方は極端ですが、43兆円という砂糖の山にたかるアリみたいになっているんじゃないでしょうか。ーーー身の丈を超えていると思えてならないのです。反撃能力(敵基地攻撃能力)の確保に向けた12式ミサイル(地対艦誘導弾)の改良、マッハ5以上で飛ぶ極超音速ミサイルの開発・量産、次期戦闘機の開発、サイバー部隊2万人、多数の小型人工衛星で情報を集める衛星コンステレーションなど、子どもの思いつきかと疑うほどあれもこれもとなっています。全部本当にできるのか、やっていいことなのか、その検討結果が見えず、国民への説明も不十分です。絵に描いた餅にならないか心配です」
「自衛隊の積み上げではないからだと考えます。私の経験では、新しい計画を作る場合、各自衛隊は5年程度の時間をかけます。ーーー米国の要請でその目標(2%)をNATOがつくったのは2014年で、10年以内という時間軸です。相当に準備している中で、ロシアのウクライナ侵攻があり、ドイツなどが明確にかじを切ったわけです。日本は急すぎた上に、内容も身の丈を超えたものになっています」
「戦前、海軍の平時予算が日露戦争時の予算より大きくなったことに危機感を高めた加藤友三郎・海軍大将(後に首相)は『国防は軍人の専有物にあらず』と言ってまわりの反対を押し切り、1922年にワシントン海軍軍縮条約に調印しました。今年7月にある地方の自衛隊幹部が、社会保障費なども必要な中で防衛費だけが特別扱いされるのは無条件では喜べない、という発言をしてたたかれました。国の財政や経済という広い視野から発言をした幹部がいることを誇りに思います」
「賛成も、反対もある。それが正常な民主主義社会です。防衛省が世論誘導工作の研究を始めるという一部報道がありました。心理戦や情報戦への対抗手段はあっていいと思いますが、国民の意識を一定方向に持っていくようなことは絶対にやってはいけませんし、戦後生まれの自衛隊がそのようなことを企てることは断じてないはずです。自衛隊が守っているのは民主主義なのですから」
 岸田内閣が進める子供の玩具遊びに等しい防衛費倍増、敵基地攻撃力確保の政策、そして防衛省が検討を始めたと報じられたAIを活用しSNSで国民世論を誘導する世論工作研究に対する、元第41代自衛艦隊司令官香田洋二氏による批判と警鐘。
『防衛省、世論工作の研究に着手 AI活用、SNSで誘導』
 教育予算はOECD中最低、コメント欄で三牧同志社大准教授が指摘するように一人当たりGDPは2022年に台湾、23年に韓国を下回るというこの国の状況で、巨大地震や津波に対する対応も他人事のまま、防衛予算だけ突出してNATO並み2%化を、国民不在の実に拙速でいい加減な与党内議論で結論づけるという異常さ。 
 第一次大戦後、諸国は世界大戦を繰り返さないために1920年国際連盟を結成、1922年ワシントン海軍軍縮会議で主要国の主力艦の保有を規制、1928年「国際紛争の解決手段としての戦争の放棄」を定めた「不戦条約」を成立させ、1930年ロンドン軍縮会議で主力艦、補助艦の規制についても合意したが、日本は31年満州事変後の1934年国際連盟を脱退しワシントン協定等も破棄、イタリア、ドイツがそれにつづき世界はふたたび軍拡競争になだれ込んでいった。
 憲法に「戦争の放棄」を定めるこの国の防衛費倍増、敵基地攻撃力確保そして沖縄の人々の意思に背き、そこを再び熾烈な戦場としかねない南西諸島の要塞化は、この国が抱える少子化、気候変動、そして巨大自然災害と国民の経済格差と分断の広がりという喫緊の課題に何ら有効な策とはなり得ず、世界をさらなる軍備拡大に引き摺り込むだけ。
《政府は16日に閣議決定した防衛力整備計画で、今後5年間の防衛費を計43兆円とした。前回の計画の1・5倍以上で、歴史的な増額となった。防衛省・自衛隊は歓迎のはずだが、海上自衛隊現場トップの自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は「身の丈を超えている」と警鐘を鳴らす。現役時代は防衛予算を増やせず辛酸をなめたという香田氏に、その思いを聞いた。
 ――今後5年間で整備する防衛力の内容と総額が決まりました。
 「今回の計画からは、自衛隊の現場のにおいがしません。本当に日本を守るために、現場が最も必要で有効なものを積み上げたものなのだろうか。言い方は極端ですが、43兆円という砂糖の山にたかるアリみたいになっているんじゃないでしょうか」
 ――防衛費を増やすべきではないということですか。
 「違います。私は防衛費が足りないとずっと言ってきた人間です。10年ほど予算も担当しましたが、GDP比1%という枠に抑えられ、必要な艦船や航空機をそろえると、とても弾薬まで十分には買えませんでした。老朽化する隊舎の耐震工事でさえ、目をつぶらざるを得なかった。台湾情勢、北朝鮮のミサイル発射、ロシアのウクライナ侵攻という中で、弾薬など継戦能力の大幅な拡充や、他国に遅れないための装備品の開発・調達には相当のお金が必要です」
 ――では、何が問題なのですか。
 「身の丈を超えていると思えてならないのです。反撃能力(敵基地攻撃能力)の確保に向けた12式ミサイル(地対艦誘導弾)の改良、マッハ5以上で飛ぶ極超音速ミサイルの開発・量産、次期戦闘機の開発、サイバー部隊2万人、多数の小型人工衛星で情報を集める衛星コンステレーションなど、子どもの思いつきかと疑うほどあれもこれもとなっています。全部本当にできるのか、やっていいことなのか、その検討結果が見えず、国民への説明も不十分です。絵に描いた餅にならないか心配です」
 「例えば、12式ミサイルは射程を200キロから1千キロに伸ばしますが、搭載燃料を5倍にしてエンジンを含めて再設計することが不可欠です。新たな運用体制も必要で、簡単にできるとは思えません。米国製巡航ミサイルのトマホークとの使い分けはどうするのでしょうか。極超音速ミサイルは米国が2兆円かけても配備計画にいたらず、衛星コンステレーションは米国もやろうとしています。防衛産業の基盤が厚く、同盟国である米国との共同開発・運用は効率と効果の面から選択肢とするべきではないでしょうか。サイバー部隊も、人員確保に悩む自衛隊で他の部隊の能力を維持したまま2万人も集められるのか疑問です」
 ――なぜ、こんなことになっているのでしょうか。
 「自衛隊の積み上げではないからだと考えます。私の経験では、新しい計画を作る場合、各自衛隊は5年程度の時間をかけます。世界中の事例を見ながら、導入する装備品や量を決め、各自衛隊の積み上げの結晶として、何兆円という規模になるのです。当時はGDP比1%の枠があり、ほとんど増えない中でもそうだったのです。ところが、今回はいきなりGDP比2%という数字があり、砂糖の山が現れたわけです。当時の私だったら、いきなりそんなに増やせと言われても新たな事業を短期間で出せなかったんじゃないかと思う規模感です」
 ――ただ、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国も、国防費の2%以上が目標です。
 「米国の要請でその目標をNATOがつくったのは2014年で、10年以内という時間軸です。相当に準備している中で、ロシアのウクライナ侵攻があり、ドイツなどが明確にかじを切ったわけです。日本は急すぎた上に、内容も身の丈を超えたものになっています」
 ――防衛費は多ければいいということでもないのですか。
 「予算に無駄があれば、防衛力にとってもマイナスです。新しい研究を始めると、途中でやめることはなかなかできず、人も張り付きます。多くの装備品は実はローン払いで後年度負担があり、維持費も相当にかかります。これらの選択肢を誤ると、将来本当に必要な防衛力にお金や人材を投入できないことにさえなるのです」
 ――防衛費増額は自民党からの要請が強かったわけですが、政治との関係はどう考えますか。
 「文民統制というのは極めて重要ですが、政治は大きな方針を決め、その内容は自衛隊が考えるべきです。かつて米国はベトナム戦争で『ベスト・アンド・ブライテスト(最良で最も聡明(そうめい))』と呼ばれた閣僚や大統領補佐官たちが攻撃目標まで指示し、泥沼化して敗れました。その反省を踏まえた湾岸戦争で、米国の政治はイラクのフセイン政権に勝利するという大きな方針だけを示し、勝ったのです」
 「議員が防衛省・自衛隊に情報を出させ、専門的な知識で厳しくチェックすることは必要です。ただ、内容に立ち入りすぎるのは禁物です。陸上から海上へ、大型艦を小型化へと二転三転するイージスシステムは、まさに政治的な迷走の象徴です。今回、2%のかけ声が先行し、政治家からもあれもこれもやるべきだという声も強かったのではないでしょうか。防衛費増額は私もOBとしてありがたいと思いますが、それに悪乗りしている防衛省・自衛隊の姿が見えるのです。本当の意味での積み上げが重要で、その結果、5年後の時点ではまだ1・5%ということもあり得たと思います。もちろん、2%超になることもあり得ますが、そこでは財政当局や政治の査定が入ります」
 ――防衛増税については賛否が割れました。財源はどう考えますか。
 「国民負担という痛みがあるからこそ、本当に必要な防衛力が積み上がります。国債という麻薬のようなものを平時に使えという主張があることは信じられません。歴史的にも、いまのウクライナやロシアもそうですが、本当の有事では政府は嫌でも大量の借金をしなければいけません。平時は歳出改革以上の分は、税金で支えて頂くしかないのです。でも、だからこそ1円たりとも無駄にしてはいけないし、後ろ指をさされることがないように、国民への説明責任を果たさないといけません」
 「戦前、海軍の平時予算が日露戦争時の予算より大きくなったことに危機感を高めた加藤友三郎・海軍大将(後に首相)は『国防は軍人の専有物にあらず』と言ってまわりの反対を押し切り、1922年にワシントン海軍軍縮条約に調印しました。今年7月にある地方の自衛隊幹部が、社会保障費なども必要な中で防衛費だけが特別扱いされるのは無条件では喜べない、という発言をしてたたかれました。国の財政や経済という広い視野から発言をした幹部がいることを誇りに思います」
 ――防衛費増額そのものに反対する人も少なくありません。
 「賛成も、反対もある。それが正常な民主主義社会です。防衛省が世論誘導工作の研究を始めるという一部報道がありました。心理戦や情報戦への対抗手段はあっていいと思いますが、国民の意識を一定方向に持っていくようなことは絶対にやってはいけませんし、戦後生まれの自衛隊がそのようなことを企てることは断じてないはずです。自衛隊が守っているのは民主主義なのですから」
 「私は現役時代、自衛隊は悪だという世間の視線を時に感じながら過ごした世代です。20代の時、北海道沖で暗夜、私の乗る護衛艦が突然ソ連軍艦から照明弾を発射され、大砲を向けられたことがありました。命の危険を初めて感じ、自衛隊員の服務宣誓にある『事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる』の意味を実感しました。命をかける自衛隊を国民に支えてもらいたいという思いはあるし、古巣に私が厳しく言うのは、多くの国民に支えたいと思ってもらえる組織であってほしいからなのです」(聞き手・西尾邦明)
      ◇
 こうだ・ようじ 1949年徳島県生まれ。72年防衛大卒、海上自衛隊入隊。2007年、第41代自衛艦隊司令官に就任。退官後、ハーバード大上席フェローなどを歴任し、現在はジャパンマリンユナイテッド顧問。近著に「防衛省に告ぐ―元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態」(中公新書ラクレ)。》



2022年12月17日
「この武力攻撃が発生した場合とは、侵害のおそれがあるときではなく、また、わが国が現実に被害を受けたときでもなく、侵略国がわが国に対して武力攻撃に着手したときである、(中略)わが国に現実の被害が発生していない時点であっても、侵略国がわが国に対して武力行使に着手しておれば、わが国に対する武力攻撃が発生したことと考えられ、自衛権発動の他の2つの要件を満たす場合には、わが国としては、自衛権を発動し、攻撃することは法律上可能となる、こういうふうに考えております」1999年3月野呂田芳成防衛庁長官(当時)衆議院安全保障委員会答弁
「しかしこのような事態は今日においては現実の問題として起りがたいのでありまして、こういう仮定の事態を想定して、その危険があるからといって平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない」1959年3月伊能繁次郎防衛庁長官
「専守防衛の防衛力は、わが国に対する侵略があった場合に、国の固有の権利である自衛権の発動により、戦略守勢に徹し、わが国の独立と平和を守るためのものである」1970年防衛白書(中曽根康弘内閣)
「専守防衛ないし専守防御というのは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、もっぱらわが国土及びその周辺において防衛を行なうということでございまして、これはわが国防衛の基本的な方針であり、この考え方を変えるということは全くありません」1972年10月31日田中角栄首相衆院本会議
「防衛上の必要からも相手国の基地を攻撃するというような戦略的な攻勢はとらず、専ら我が国土及びその周辺において防衛を行い、侵攻してくる相手をそのつど撃退するという受動的な防衛戦略の姿勢をいい、我が国防衛の基本的な方針となっている」1975年発行「行政百科大辞典」防衛庁解説
「専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その防衛力行使の態様も、自衛のための必要最小限度にとどめ、また保持する防衛力も自衛のための必要最小限度のものに限られるなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢を言いあらわしているもの」1981年8月防衛白書(鈴木善幸内閣)
「敵基地攻撃能力の保有についてお尋ねがありました。スタンドオフミサイルは、我が国の防衛に当たる自衛隊機が相手の脅威の圏外から対処できるようにすることで、隊員の安全を確保しつつ、我が国の安全を確保するものであり、敵基地攻撃を目的とするものではありません。政府としては、新たな大綱及び中期防のもとでも、いわゆる敵基地攻撃を目的とした装備体系を整備することは考えていません」2019年5月16日安倍晋三首相第198回国会衆議院本会議第24号
「(敵基地攻撃能力対象を)基地に限定する必要はない。向こうの中枢を攻撃することも含むべきだ」2022年4月3日山口講演
「(「着手」の判断基準を問われて)具体的な対応について申し上げることは安全保障の機微に触れるので、私の立場からは控えなければならない」12月16日岸田首相
「着手は個別具体的に判断するしかない」「攻撃対象は具体的には明示せず、個別具体的に判断する」政府関係者
 歴代首相らの「防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく」(田中角栄)「敵基地攻撃を目的とした装備体系を整備することは考えていません」(安倍晋三)などの答弁や防衛白書の同趣旨の記述から逸脱した、自衛権発動の要件を「侵略国がわが国に対して武力攻撃に着手したとき」との1999年3月の野呂田芳成防衛庁長官の答弁が一人歩きし、ロシアのウクライナ侵攻を見てカルトと癒着した元首相が無責任に前言を180度転換し「基地に限定せず」「向こうの中枢を攻撃」と言い募り、現首相はこれまでの政府答弁を180度変えて敵基地攻撃力保持への方針転換を宣言するが、「着手」判断の基準さえ国民に説明しない。
「着手は個別具体的に判断するしかない」「攻撃対象は具体的には明示せず、個別具体的に判断する」とは、自衛隊総指揮官である首相が判断基準を国民や国会に示すことなく独断で、しかも相手国による攻撃の前に敵基地や施設等への攻撃つまり戦争を開始できるということ。国民主権を完全に逸脱しており、現在の民主国家でこれほどの政府による独断専横が許される例はない。
 攻撃の「着手」段階で相手方を攻撃することは、国連憲章など国際法が禁止する先制攻撃に他ならない。ウクラライナがもし、ロシア軍が国境周辺に展開し越境のための移動を始めたと判断した時点で、ロシア国内の部隊や基地に攻撃を加えていれば、それはウクライナによる先制攻撃と見做され、逆にロシア軍の侵攻を正当化して、ウクライナは現在のようなNATOをはじめとする国際社会の支援を得られはしなかっただろう。
 野呂田長官の発言に肯首する政治家、官僚そして今の岸田政権には、男女同権や夫婦別姓すら程遠く、難民申請者への虐待や学校での国旗・国歌強制なども含め、基本的な国際法、人道法の理解が決定的に不足している。GDP三位の国が莫大な国債や低い教育費を放置して軍事予算を2倍の世界三位として攻撃力を強化することは、日本とその周辺そして世界を安定させるのではなく際限なき軍拡に進ませるだけ。そして引き起こされる戦争の惨害はより甚大なものとなる。まさに亡国の道。
《岸田政権が16日、安全保障関連3文書を決定した。最大の焦点だった「敵基地攻撃能力」は、「反撃能力」として、その能力を保有することになった。文書からは、敵の攻撃を受けてから反撃するかのように読めるが、実際にはそれだけではない。ふつうに読むだけではわからない重要な要素が含まれている。
〈おことわり〉引き続き、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」と表記します
 「国家安全保障戦略(NSS)」では、「反撃能力」をこう定義した。
 「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の3要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」
 しかし、純粋な「反撃」だけに行使されるわけではない。定義に明記された「我が国に対する武力攻撃が発生」とは、被害の発生を意味しないからだ。
【そもそも解説】「敵基地攻撃能力」って何? 今なぜ注目されるのか
攻撃に「着手した」と認定するのは難しい
 1999年3月、野呂田芳成防衛庁長官(当時)は、参院外交防衛委員会で「武力攻撃が発生した場合」について、「武力攻撃に着手したときである」と答弁した。今の政府も、その立場を引き継ぐ。
 相手が実際に攻撃していなくても、攻撃に「着手」すれば、日本に対する武力攻撃が発生したとみなすことができるという考え方だ。実際、政府も「反撃能力」の定義に書かれた「我が国に対する武力攻撃が発生」について「着手が行われたということだ」と認める。
 ただ、北朝鮮などのミサイル能力は向上しており、攻撃に「着手した」と認定するのは難しい。判断を誤れば、国際法違反の「先制攻撃」になる危うさもはらむ。
 自民、公明両党の協議では、「着手」が焦点になった。公明の北側一雄副代表は当初、「着手」について、「厳格に見ていかなければいけない」と訴えていたが、政府や自民は「手の内を明かす」(小野寺五典元防衛相)と主張。厳格化には消極的で、個別具体的に判断するという考えを強調した。
 結局、公明は協議で厳格化へのこだわりは見せず、安保3文書では、「着手」の判断基準について触れられなかった。政府関係者は「着手は個別具体的に判断するしかない」と言う。首相も会見で、「具体的な対応について申し上げることは安全保障の機微に触れるので、私の立場からは控えなければならない」と述べるにとどめた。
「攻撃対象は具体的には明示せず、個別具体的に判断する」
 また、「反撃能力」の定義からは敵基地攻撃をするのは、日本への攻撃に対してのみとも読めるが、そうとは限らない。
 定義には「武力の行使の3要件に基づき」とある。「3要件」は、@日本への武力攻撃が発生、または日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされるなどの事態でA他に適当な手段がない場合B必要最小限度の実力行使に限って、自衛隊は武力行使ができる――という内容で構成されている。
 2015年に成立した安全保障関連法制では「日本の存立が脅かされる」などの事態を「存立危機事態」として、集団的自衛権の行使が一部認められることになった。「他国」の念頭にあるのは米国だ。
 政府は今年5月、「存立危機事態」でも敵基地攻撃できるとする答弁書を閣議決定している。安保3文書では「存立危機事態」や集団的自衛権について触れていないが、政府は「3要件を満たせば行使しうる」としている。
 さらに、安保3文書では、攻撃対象にも触れられなかった。自民が4月にまとめた政府への提言では、対象を「相手国のミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含む」よう求めていた。
 だが、自民、公明両党の協議では「攻撃対象は具体的には明示せず、個別具体的に判断する」との考えで一致した。政府関係者は「国際人道法の基本原則では、武力の行使は軍事目標に限られている。これに基づくことは言うまでもない」と強調するが、明示されないことから、攻撃対象に歯止めがかからない恐れもある。
 今回の安保3文書にはこうした重要な要素が含まれているにもかかわらず、十分な説明はない。
 一方、NSSでは「反撃能力は、憲法及び国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を変更するものではなく、武力の行使の3要件を満たして初めて行使され、武力攻撃が発生していない段階で自ら先に攻撃する先制攻撃は許されないということに一切変更はないことはいうまでもない」と強調する。
 今回策定された安保3文書の一つ「国家防衛戦略」では、「ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために(略)反撃能力を保有する必要がある」「ミサイル攻撃については、まずミサイル防衛システムを用いて(略)我が国に向けて飛来するミサイルを迎撃する。その上で(略)スタンド・オフ防衛能力等を活用する」といった内容も盛り込まれている。政府は「あくまで例示だ」と説明するが、例示を重ねることによって、「反撃」を印象づける狙いが透けて見える。(田嶋慶彦、松山尚幹)
     ◇
〈おことわり〉閣議決定した安保関連3文書で、政府は敵基地攻撃能力を「反撃能力」と表記しています。「反撃」とは攻撃を受けた側が逆に攻撃に転ずる意味ですが、実際には攻撃を受けていなくても、相手が攻撃に着手した段階で、その領域内のミサイル発射拠点などを攻撃することも想定しています。このため、朝日新聞では引き続き、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」と表記します。》



2022年12月16日
「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある。ーー中国はこれまでにない最大の戦略的な挑戦、北朝鮮は従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威、ロシアは安全保障上の強い懸念」
「我が国への侵攻を抑止する上で鍵となるのは、反撃能力である。反撃能力は我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の3要件に基づき、必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加える能力」
「Y 優先する戦略的なアプローチ
2 戦略的なアプローチと主な方策
 (1)危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化するための外交を中心とした取り組みの展開
エ 軍備管理・軍縮・不拡散」NSS国家安全保障戦略
「(敵基地攻撃は相手が攻撃に着手した段階で行使するのか、実際に攻撃した後なのか問われ)安全保障の機微に触れるので、私の立場からは控えなければならない」岸田首相
・敵の射程圏外から攻撃できる長射程ミサイル「スタンド・オフ防衛能力」に予算5兆円。長射程巡航ミサイル1000発以上の保有検討。その他23年度から5年間の防衛費の総額43兆円程度。
 カルト集団と癒着し支持率30%台の迷走を続ける内閣が、安倍派を筆頭にカルト色に染まった与党内のドタバタの議論の末、「戦力の不保持」「交戦権の否認」を謳う日本国憲法を蹂躙する閣議決定でこの国の戦後政策を大転換させようと、「軍備管理・軍縮・不拡散」をお題目としながら自らは軍備拡大に勤しみ、1241兆円の国債=次世代への莫大な負債を償還するあても無く巨額の予算を注ぎ込んで、中距離ミサイルなど武力の玩具遊びにうつつを抜かす。
 「敵基地攻撃能力」は、クリミヤを「併合」したプーチンに見苦しく擦り寄り、「ウラジミール、君と僕は同じ未来を見ている。ゴールまで、ウラジミール、2人の力で駆けて、駆け、駆け抜けよう」と迎合しながら北方領土返還は途絶し、結果としてプーチンのさらなるウクライナ侵略を後押しし、他方で嫌韓を煽りながら韓国発のカルト集団と永く癒着し高額献金など国民の収奪を招いた安倍元首相が4月、「基地に限定せず、中枢攻撃も含むべき」と主張したもの。まさに愚劣極まる憲法違反の発想でしかない。
 ロシアのウクライナ侵略を厳しく批判せず、迎合したのは安倍自公政権であり、北朝鮮のミサイル開発は、安倍派を中心に議会選挙で広告塔となり利用した統一教会が日本国民を収奪した献金が一役買っている。中国、北朝鮮、ロシアを「挑戦、脅威、懸念」と呼ぶ前に、自らの行いをしっかり反省したらどうか。
 大量の中距離ミサイル保有と配備そして沖縄と南西諸島の要塞化というなし崩しの軍備拡大は、相手方の攻撃を抑止などせず、凄惨極まる戦争へとエスカレートしていくだけ。日本と中国、北朝鮮そしてロシアの間には、尖閣と北方4島の領有問題、平和条約締結と終戦・植民地支配と拉致被害問題の解決という課題はあるが、それらの問題が否応なく武力衝突や戦争に至る必然も意義もない。
 4基の原発の原子炉メルトダウンで「東日本壊滅」の一歩手前となった福島原発事故の教訓も学ぶことなく、国内原発の再稼働や増設を喧伝しながら仮想敵国との大量のミサイルの撃ち合いを夢想する無責任極まる政治家たち。最早この政権は退場させるしかない。
《岸田政権は16日、国家安全保障戦略(NSS)など安保関連3文書を閣議決定した。NSSは安保環境が「戦後最も厳しい」とし、相手の領域内を直接攻撃する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」との名称で保有すると明記。2023年度から5年間の防衛費を現行計画の1・5倍以上となる43兆円とすることなどを盛り込んだ。憲法に基づいて専守防衛に徹し、軍事大国とはならないとした戦後日本の防衛政策は、大きく転換することになった。
【要旨】岸田政権が閣議決定した安保関連3文書の要旨
敵の攻撃受けてから反撃、だけでない 安保3文書の説明は十分なのか
〈おことわり〉引き続き、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」と表記します
 3文書は、外交や防衛などの指針であるNSSのほか、防衛の目標や達成する方法を示した「国家防衛戦略」(現・防衛計画の大綱)と自衛隊の体制や5年間の経費の総額などをまとめた「防衛力整備計画」(現・中期防衛力整備計画)で構成される。NSSは2013年に安倍政権下で策定され、改定は今回が初めて。
【連載】徹底解説 安保の行方
理念失い、膨れあがる「専守防衛」 始まりは憲法解釈変えた安倍内閣
 NSSは「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある」と危機感を強調した。その上で、中国は「これまでにない最大の戦略的な挑戦」、北朝鮮は「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」とし、ロシアは「安全保障上の強い懸念」と位置づけた。
 こうした安保環境に対応するために防衛力を抜本的に強化していくと表明。「我が国への侵攻を抑止する上で鍵となるのは、反撃能力である」とした。「反撃能力」は「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の3要件に基づき、必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加える能力」などと定義した。岸田文雄首相は16日の記者会見で「相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となる反撃能力は、今後不可欠となる能力だ」と重要性を強調した。
 敵基地攻撃について政府はこれまで憲法上、「自衛の範囲」としつつも、政策判断として能力を保有してこなかった。今回、「反撃能力」と言い換えて保有に踏み切った。ただ、実際には相手が攻撃していなくても、攻撃に「着手」している段階で行使できる。「着手」の認定を誤れば、国際法違反の先制攻撃になりかねないが、判断基準は設けていない。攻撃対象も明示されておらず、歯止めがかからないおそれがある。
【そもそも解説】安保3文書とは? 新たに明記「敵基地攻撃能力」
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〈おことわり〉閣議決定した安保関連3文書で、政府は敵基地攻撃能力を「反撃能力」と表記しています。「反撃」とは攻撃を受けた側が逆に攻撃に転ずる意味ですが、実際には攻撃を受けていなくても、相手が攻撃に着手した段階で、その領域内のミサイル発射拠点などを攻撃することも想定しています。このため、朝日新聞では引き続き、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」と表記します。
防衛費、GDPの2%に
 首相は会見で敵基地攻撃は相手が攻撃に着手した段階で行使するのか、実際に攻撃した後なのか問われ、「安全保障の機微に触れるので、私の立場からは控えなければならない」と明言しなかった。
 敵基地攻撃に必要な装備も増強する。敵の射程圏外から攻撃できる長射程ミサイル「スタンド・オフ防衛能力」に5兆円を計上。国産ミサイルの能力を向上させ、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」も導入する。
 サイバー安全保障分野での対応能力の向上も打ち出した。国や重要インフラなどに対する重大なサイバー攻撃を未然に排除したり、被害の拡大を防止したりするため、「能動的サイバー防御」を導入。攻撃者のサーバーなどに侵入、無害化ができるよう政府に必要な権限を付与できるようにするとした。しかし、「通信の秘密」の侵害につながる恐れがある。
 こうした防衛力の抜本的な強化に向け、NSSでは防衛費の増額も明記。27年度には、研究開発、公共インフラ整備などの防衛に資する経費も合わせて予算水準が現在の国内総生産(GDP)の2%に達するよう所要の措置を講ずるとした。防衛力整備計画では、23年度から5年間の防衛費の総額を「43兆円程度」とした。19〜23年度の総額の27兆4700億円程度から1・5倍以上に増やした。5年目にあたる27年度の防衛費は「8兆9千億円程度」と明記した。
 政府は、防衛費増額で新たに必要となる増額分を17兆円程度としている。最終年度の27年度には増税で1兆円強を捻出する方針だ。
 自民、公明の両党は16日、来年度の与党税制改正大綱を決定した。「24年以降の適切な時期」に法人税、所得税、たばこ税を増税して防衛費増額の財源にあてる。首相は会見で増税について「開始時期などの詳細は、さらに与党でも議論を続けて、来年決定する」と語った。
 安保3文書をめぐっては、首相は就任直後の昨年10月、所信表明演説で改定を明言した。衆院選後の12月の所信表明演説では、「いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討」すると踏み込んだ。今年5月にバイデン米大統領との会談で「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意」を表明。政府は9月に有識者会議を新設し、10月から与党間で改定に向けた協議を重ねていた。(松山尚幹)
コメントプラス
星野典久
(朝日新聞名古屋報道センター次長=政治)
2022年12月16日17時17分 投稿
【視点】「いま隣国からの脅威が高まっています。軍事費を増額したほうが良いと思いますか?」。そう聞かれたら多くの国民が「イエス」と答えるでしょう。でも実はこれ、昔から行われている戦費調達の常套手段です。
このやり方で多くの国が戦費調達に走ったのが第一次世界大戦です。当時の欧州は第二次産業革命によってあらゆる分野で技術革新が起きていました。戦争となれば、ちょっとの兵器、軍艦の性能の差が勝敗を大きく分けることになります。他国より少しでも優れた兵器、軍艦を開発し、数多く製造するためには、当然大金が必要になります。指導者たちはやはり当時浸透していたメディア(新聞)を使い、国民の不安をあおって増税への理解を得ようとしたわけです。
ん?なんだか今の日本と状況が似てますね。
そもそも軍事費を増額したら戦争を避けられるのでしょうか。歴史が示す答えは「ノー」です。軍拡競争はエスカレートし、第一次世界大戦は激化。殺傷能力の高い兵器が次々投入され、それまでの戦争では考えられないような1500万人以上ともいわれる戦死者を出します。第一次世界大戦が終わっても、参戦国同士のしこりは残ったままで、終戦からわずか21年後には第2次世界大戦が勃発します。
さて、今回の日本の防衛費拡大で戦争が防げるのでしょうか。中国はすでに圧倒的な数のミサイルを持っています。日本が防衛力を極限まで高めたとしても、中国の今の経済力を持ってすれば、それを上回る軍備増強が可能です。抑止力どころか、むしろエスカレートする可能性が高いわけです。
敵基地攻撃能力(反撃能力)といいますが、例えば北朝鮮は列車や車両、潜水艦などを使い、あらゆる場所からミサイルを打つことができます。日本はおあつらえ向きにも日本海側に原発が並んでいます。そこに一発でも撃ち込まれたらどうなるか。反撃以前の問題であるように思います。
だからといって防衛力強化が無駄と言っているわけではありません。安全保障とは、軍事だけでなく外交も含めて対応するものだという基本が、議論から抜け落ちていることに強い違和感を感じています。
「歴史は繰り返す」といいます。繰り返さないためにまず必要なことは、歴史から学ぶ謙虚な姿勢と、それに基づく平和外交の努力を諦めずに続けることなんだろうと思います。》


2022年12月15日
・人類が全面核戦争に最も近付いたのは、1962年10月に発生した「キューバ危機」だと言われている。二大核保有国であった米国とソ連が核戦争の瀬戸際まで進んだ。「全面核戦争による人類の絶滅」という悪夢が、あと一歩で現実になろうとしていたのである。
・ソ連がキューバへの中距離核ミサイル配備を決定したのには主に2つの理由があった。
 一つは、キューバの防衛である。ーーーもう一つの理由は、米国とソ連との「ミサイル・ギャップ」であった。米国は1962年5月までに、ソ連から最短200キロの距離にあるトルコ国内に、中距離弾道ミサイル「ジュピター」を配備していた。一方、ソ連が保有する米国本土を攻撃できるミサイルは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)数発だけだった。
・米統合参謀本部は、ソ連のキューバへの中距離ミサイル配備が明らかになる以前から、カストロ政権の転覆を目的とした侵攻計画を練り上げていた。米国政府が公開した当時の機密文書によれば、1962年9月下旬時点で、キューバ侵攻のためのOPLAN(作戦計画)が少なくとも3つ存在していた。
・10月19日に開かれた国家安全保障会議(NSC)の拡大会議で、空軍トップのカーティス・ルメイ参謀総長(※第二次世界大戦で東京大空襲を始め日本本土への戦略爆撃を指揮した人物)は大統領に「軍事介入する以外にはどんな解決策も見当たらない」と述べ、武力侵攻が絶対に必要だと強く迫った。海軍トップのジョージ・アンダーソン作戦部長、陸軍トップのアール・ホイーラー参謀総長も武力侵攻を支持した。
・一方、ロバート・マクナマラ国防長官は、いきなり武力侵攻をするのではなく、まずは海上封鎖で圧力をかけることを主張した。軍部の強い主張に押されて一度は武力侵攻に傾いたケネディ大統領だったが、最終的には海上封鎖を選択した。
・この日(27日)の午前9時過ぎ、キューバ上空を偵察飛行していた米軍U-2がソ連軍の地対空ミサイル(SAM)に撃墜され、乗っていたルドルフ・アンダーソン空軍少佐が死亡したのである。いきり立った米軍部は、翌日にもキューバへの空爆に踏み切るよう大統領に強く迫った。マクナマラ国防長官は、「この日が生涯最後の日になると覚悟した」と後に振り返った。
・しかし、ギリギリのところで戦争は回避される。米国がキューバへの不可侵を保証し、海上封鎖を解除するのと引き換えに、ソ連がキューバから核ミサイルを撤去するという合意が成立したのである。
・ケネディ大統領は表向き、この提案(トルコからジュピターミサイルを撤去)は受け入れなかった。しかし、弟のロバート・ケネディ司法長官がソ連のドブルイニン駐米大使と密かに会い、トルコからジュピターを撤去する意向であることを伝えた。事実上の「密約」にしたのは、ソ連の脅しに屈してトルコから中距離ミサイルを撤去すると見られたくなかったからであった。
・こうして、約2週間にわたり世界を核戦争による人類滅亡の瀬戸際に追い込んだ危機が去った。実は核戦争が起きる寸前だった。キューバ危機から40年後、元ソ連軍潜水艦乗組員の証言などで新たな事実が明らかになる。
・10月27日の午後5時頃、潜航中のソ連軍潜水艦B-59を発見した米軍駆逐艦が5発の訓練用爆雷を投下。→B-59のバレンティン・サビツスキー艦長は、ついに戦争が始まってしまったのだと判断し、魚雷の発射準備を命令した。魚雷発射管の一つには、前方部分に特別に紫の塗装が施された核魚雷が装填されていた。→しかし、核魚雷は発射されなかった。副艦長のヴァシーリイ・アルヒーポフが発射に反対し、艦長を説得したのだった。もしアルヒーポフが制止していなかったら、艦長の命令通りに核魚雷が発射されていただろう。そうなっていたら、米ソの核戦争が始まっていた可能性が高い。
・当時、米国の施政下にあり、米軍の中距離核巡航ミサイル「メースB」が配備されていた沖縄でも、10月28日未明(米国東部時間27日)に4発の核ミサイルの発射命令が誤って出されていたことが、2015年に米軍関係者の証言で明らかになった。→4つの標的情報のうち、1つはソ連であったが、他の3つは他の国であった。ミサイル基地の指揮官はこのことに疑問を持ち、「命令の真偽を見極めよう」と言い出したという。上級部隊に確認したところ、命令は誤りであったことが判明した。ここでも、現場の将校の冷静な判断が、核戦争の勃発を寸前のところで防いでいたのである。
・筆者は冒頭で、キューバ危機を単なる「昔話」とは思えなくなっていると書いた。その理由は、ロシアの「核恫喝」だけではない。米国が来年にも、中国に照準を合わせた地上発射型中距離ミサイルをアジアに配備しようとしているからだ。
・配備先はまだ決定されていないが、射程距離を考えると日本が最有力だ。米本土の喉元に位置するキューバへの中距離ミサイル配備が米国にとって看過できない脅威になったように、日本に米国の中距離ミサイルが配備されれば中国にとっては看過できない脅威となる。中国は「対抗措置」をとると明言しており、米中の緊張が高まるのは必至だ。万が一、キューバ危機のような事態になれば、今度は日本がその舞台になる。
・ケネディ大統領も海上封鎖を開始する前日、「なによりも大きな危険は誤算――判断を誤ることだ」と口にしていたという(ロバート・ケネディ著『13日間 キューバ危機回顧録』中公文庫)。米国もソ連も核戦争は望んでいなかった。しかし、誤算や誤認によって双方とも望まぬ戦争のトリガーが引かれ、それが核戦争にまでエスカレートすることをケネディ大統領は最も恐れていた。そして、前述の通り、実際に誤算や誤認によって核戦争が起きていてもおかしくなかったのである。
・実際に中距離ミサイルが発射された場合、それが通常弾頭か核弾頭かを識別することは困難である。だからこそ、中距離核戦力(INF)全廃条約では、核弾頭ではなく、その運搬手段であるミサイルの保有を禁止した。しかも、現在米中ともに開発を進める「極超音速(音速の5倍以上)ミサイル」は発射から着弾までの時間が10分程度と極めて短いので、誤算や誤認による核戦争勃発のリスクが高い。
・こうしたリスクを直視するならば、中国との「ミサイル・ギャップ」を埋めるために米国が日本に中距離ミサイルを配備するというのは、「抑止力向上」というメリットだけでは片付けられない。
・60年前のキューバ危機の教訓に学ぶのであれば、核戦争のリスクを高めるミサイル軍拡競争へと突入するのではなく、互いに相手にとっての脅威を取り除く軍縮協議こそが緊急に求められているのではないだろうか。
 『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞した布施祐仁氏による、岸田政権が固執する中距離ミサイルの日本配備がもたらす「キューバ危機」に照らした東アジアの核戦争危機に関する優れた検証記事。
 米国のトルコへの核ミサイル配備に対抗するソ連のキューバへの中距離核ミサイル配備がもたらした米ソ核戦争危機。それはどうにか回避されたが、米ソ首脳だけではなくソ連潜水艦副艦長と在沖米軍ミサイル基地指揮官の冷静な判断によるもの。現在の米露中核大国と北朝鮮指導者や現場指揮官に同じような冷静さと良心が常にあるとの保証はどこにもない。
 米軍「極超音速ミサイル」の日本配備あるいは自衛隊の保有が、戦争を抑止し安全を保証するなどという議論は、相互の軍備拡大競争を助長するだけの、破綻したレトリックに過ぎない。
 米ソ冷戦時代においてすら、米ソ間で1972年5月に「相互確証破壊」による平和保持として戦略弾道ミサイルを迎撃するミサイル・システムの開発、配備を厳しく制限し、配備を各国とも1ヶ所・迎撃ミサイルを100基以下とするABM条約を、1987年12月に射程が500kmから5,500kmまでの核弾頭及び通常弾頭を搭載した地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの廃棄を定めた中距離核戦力全廃条約を締結している。
 いずれものちに破棄されたがことが、現在のロシアによるウクライナ侵攻と核戦争危機に繋がっている。「だから日本もミサイルを保持しよう」とは、平和憲法を持ち軍備をみずから厳しく制限する日本が、迎撃ミサイルを保持すること自体が憲法に抵触するが、「敵基地攻撃」「反撃」ミサイルを保持することは明確な憲法違反であると同時に相手国の軍備をさらに増強させるだけ。まさに布施氏の「互いに相手にとっての脅威を取り除く軍縮協議こそが緊急に求められている」という指摘は的を得ている。
《ロシアの「核恫喝」によって、核戦争の脅威が高まっている。その脅威は、冷戦下で最も緊張が高まったとき以来、経験したことがないレベルに達していると、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は警告した(2022年8月、ニューヨークの国連本部で開かれた核拡散防止条約再検討会議で)。
 人類が全面核戦争に最も近付いたのは、1962年10月に発生した「キューバ危機」だと言われている。二大核保有国であった米国とソ連が核戦争の瀬戸際まで進んだ。「全面核戦争による人類の絶滅」という悪夢が、あと一歩で現実になろうとしていたのである。
 今からちょうど60年前の出来事だが、筆者は最近、これを単なる「昔話」とは思えなくなっている。その理由は最後に述べるとして、まずは、世界中を核戦争の恐怖に陥れたキューバ危機を振り返ってみたい。
「アナディル作戦」
 1962年5月24日、ソ連共産党幹部会は地上発射型中距離ミサイルのキューバへの配備を決定した。
 配備するのは、射程約1800キロの準中距離弾道ミサイル「R-12」と射程約4000キロの中距離弾道ミサイル「R-14」。両ミサイルとも、TNT火薬に換算して1メガトン(広島に投下された原爆の60倍以上)の爆発力を持つ核弾頭を装着することが可能であった。キューバにこれらのミサイルを配備すれば、ハワイ州とアラスカ州を除く米本土のほぼ全域を攻撃することが可能になる。
 米国に阻止される可能性があったため、ミサイルや核弾頭のキューバへの持ち込みは秘密裏に行わなければならなかった。「アナディル作戦」と名付けられ、経済援助物資に偽装しての輸送が7月から開始された。
 ソ連がキューバへの中距離核ミサイル配備を決定したのには主に2つの理由があった。
 一つは、キューバの防衛である。キューバでは1959年に革命が起こり、親米のバティスタ政権が倒されていた。フィデル・カストロが率いる革命政権は社会主義を目指すことを宣言し、ソ連と急接近していた。米国はカストロ政権を敵視し、1961年4月には、同政権を転覆するために亡命キューバ人に武器を与えて侵攻させた(ピッグス湾事件)。侵攻部隊はキューバ軍に撃退され、作戦は失敗に終わった。カストロ政権は、米国の軍事侵攻に備えるため、ソ連に軍事援助を求めた。それに応え、ソ連はキューバへの中距離核ミサイルの配備を決めたのである。
 もう一つの理由は、米国とソ連との「ミサイル・ギャップ」であった。米国は1962年5月までに、ソ連から最短200キロの距離にあるトルコ国内に、中距離弾道ミサイル「ジュピター」を配備していた。一方、ソ連が保有する米国本土を攻撃できるミサイルは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)数発だけだった。キューバに中距離ミサイルを配備すれば、こうした戦略的に不利な状況をひっくり返すことができる――ソ連のフルシチョフ首相には、こうした思惑もあった。
米軍部はキューバへの武力侵攻を主張
 1962年10月14日、キューバ上空を飛行した米軍偵察機U-2が、同国にソ連軍の中距離ミサイルが配備されている証拠をつかんだ。世界を震撼させることになるキューバ危機は、ここから始まった。
 首都ワシントンも含めて米本土のほぼ全域が射程圏内に入ることになるキューバへの中距離ミサイル配備は、米国にとって看過できない重大な脅威であった。軍部はキューバへの武力侵攻を強く主張した。
 米統合参謀本部は、ソ連のキューバへの中距離ミサイル配備が明らかになる以前から、カストロ政権の転覆を目的とした侵攻計画を練り上げていた。米国政府が公開した当時の機密文書によれば、1962年9月下旬時点で、キューバ侵攻のためのOPLAN(作戦計画)が少なくとも3つ存在していた(*1)。統合参謀本部は、これらの作戦計画に基づき、第一段階でキューバ国内のミサイル基地やレーダー施設、飛行場、港湾などを空爆し、第二段階で上陸・侵攻することをケネディ大統領に進言した。
 10月19日に開かれた国家安全保障会議(NSC)の拡大会議で、空軍トップのカーティス・ルメイ参謀総長(※第二次世界大戦で東京大空襲を始め日本本土への戦略爆撃を指揮した人物)は大統領に「軍事介入する以外にはどんな解決策も見当たらない」と述べ、武力侵攻が絶対に必要だと強く迫った。海軍トップのジョージ・アンダーソン作戦部長、陸軍トップのアール・ホイーラー参謀総長も武力侵攻を支持した。(*2)
 一方、ロバート・マクナマラ国防長官は、いきなり武力侵攻をするのではなく、まずは海上封鎖で圧力をかけることを主張した。軍部の強い主張に押されて一度は武力侵攻に傾いたケネディ大統領だったが、最終的には海上封鎖を選択した。
 海上封鎖を選択した理由は、奇襲的に大規模な空爆を行ってもキューバに配備されたすべてのミサイルと核弾頭を破壊できるとは限らず、米本土が核ミサイルで反撃される可能性が否定できないからであった。
海上封鎖とDEFCON 2
 10月22日夜、ケネディ大統領は国民向けのテレビ演説を行い、キューバに配備されたソ連の核ミサイルの脅威を取り除くため海上封鎖を行うと発表した。
 通常、平時に海上封鎖のような強制行動をとるには、国連安全保障理事会の決議が必要である。しかし、ソ連が拒否権を行使する可能性が高く、決議が採択される見込みはなかった。そのため米国政府は、「封鎖」(Blockade)という言葉を使わずに「隔離」(Quarantine)と言い換え、これは「武力行使」にも「強制行動」にも当たらないと強弁した。
 国防総省は「(キューバに向かうソ連船が)停船命令を拒否すれば撃沈する」と警告。統合参謀本部は、防衛準備態勢のレベルを表す「DEFCON」を第二次世界大戦後初めて、準戦時の一つ手前の「3」に引き上げた。
 これに対して、ソ連政府は「米国の措置は公然たる海賊行為」と非難する声明を発表し、キューバに向かうソ連船は米軍の停船命令は拒否すると表明。ソ連軍の戦闘準備態勢を引き上げるとともに、全兵士の休暇の中止を命令した。
 米国は10月24日午前10時に海上封鎖を開始した。
 同時に、戦略核攻撃を任務とする戦略航空軍団(SAC)のDEFCONは「準戦時」を意味する「2」に引き上げられた。同軍団のB-52戦略爆撃機は核兵器を搭載し、24時間空中待機の態勢についた。一方、ソ連のフルシチョフ首相は、米軍がソ連船を停止させて臨検すれば、海賊行為とみなし、ソ連軍潜水艦に米軍艦船を撃沈するように命ずると警告した。
米軍機撃墜で緊張は最高潮に
 緊張が最高潮に達したのは、封鎖開始から4日目の10月27日であった。
 国連事務総長の調停により、ソ連側がキューバへ向かう船を封鎖ラインの手前で一時停止させる措置をとったため、武力衝突の発生は抑えられていた。しかし、キューバでのミサイル基地建設は止まる気配がなかった。海上封鎖で中距離ミサイルの配備を止められなかったら、最後は武力行使をするほかない。米軍部は相変わらず、キューバへの空爆と侵攻を強く主張していた。
 そんな時、緊張をいっきに高める事案が発生する。この日の午前9時過ぎ、キューバ上空を偵察飛行していた米軍U-2がソ連軍の地対空ミサイル(SAM)に撃墜され、乗っていたルドルフ・アンダーソン空軍少佐が死亡したのである。いきり立った米軍部は、翌日にもキューバへの空爆に踏み切るよう大統領に強く迫った。マクナマラ国防長官は、「この日が生涯最後の日になると覚悟した」と後に振り返った。
 しかし、ギリギリのところで戦争は回避される。米国がキューバへの不可侵を保証し、海上封鎖を解除するのと引き換えに、ソ連がキューバから核ミサイルを撤去するという合意が成立したのである。
 これに加えてソ連側は、米国がトルコに配備している中距離核ミサイル「ジュピター」を撤去することも要求していた。互いの喉元に突き付けた核ミサイルを同時に撤去しようという提案であった。
 ケネディ大統領は表向き、この提案は受け入れなかった。しかし、弟のロバート・ケネディ司法長官がソ連のドブルイニン駐米大使と密かに会い、トルコからジュピターを撤去する意向であることを伝えた。事実上の「密約」にしたのは、ソ連の脅しに屈してトルコから中距離ミサイルを撤去すると見られたくなかったからであった。
 翌28日、フルシチョフ首相は、米国がキューバへの不可侵を約束したことで「キューバの防衛」というミサイル配備の目的が消失したとして、ミサイル基地建設を中止して施設を解体し、ミサイルをキューバから撤去するよう軍に命令したと発表した。
 こうして、約2週間にわたり世界を核戦争による人類滅亡の瀬戸際に追い込んだ危機が去った。
実は核戦争が起きる寸前だった
 キューバ危機から40年後、元ソ連軍潜水艦乗組員の証言などで新たな事実が明らかになる。
 米ソの緊張が最高潮に達した10月27日の午後5時頃、潜航中のソ連軍潜水艦B-59を発見した米軍駆逐艦が5発の訓練用爆雷を投下していたのである。
 海上封鎖を行う米軍にとって最大の脅威は、ソ連軍潜水艦の魚雷であった。米海軍は、ソ連軍潜水艦を見つけたら、まずソナーで「浮上せよ」を意味する水中信号を送り、それでも浮上してこなかった場合は、爆発力の小さな訓練用爆雷を投下して警告することを決めていた。
 米軍の封鎖海域近くを数日間にわたって潜航していたB-59は、ソ連本国と通信することができず情報が遮断されていた。その上、空調設備が故障し、高温と低酸素で倒れる者が続出していた。そんな厳しい状況の中、突然爆雷の爆発音が鳴り響いたので、艦内はパニックになった。
 B-59のバレンティン・サビツスキー艦長は、ついに戦争が始まってしまったのだと判断し、魚雷の発射準備を命令した。魚雷発射管の一つには、前方部分に特別に紫の塗装が施された核魚雷が装填されていた。当時、通信情報将校としてこの潜水艦に乗っていたヴァディム・オルロフ氏は、サビツスキー艦長が「今から爆破するぞ! 我々も死ぬだろうが、敵艦隊もすべてを沈めるぞ!」と叫んだと証言した(*3)。
 しかし、核魚雷は発射されなかった。副艦長のヴァシーリイ・アルヒーポフが発射に反対し、艦長を説得したのだった。もしアルヒーポフが制止していなかったら、艦長の命令通りに核魚雷が発射されていただろう。そうなっていたら、米ソの核戦争が始まっていた可能性が高い。
 核兵器が使用される寸前だったのは、これだけではなかった。当時、米国の施政下にあり、米軍の中距離核巡航ミサイル「メースB」が配備されていた沖縄でも、10月28日未明(米国東部時間27日)に4発の核ミサイルの発射命令が誤って出されていたことが、2015年に米軍関係者の証言で明らかになった(*4)。
 4つの標的情報のうち、1つはソ連であったが、他の3つは他の国であった。ミサイル基地の指揮官はこのことに疑問を持ち、「命令の真偽を見極めよう」と言い出したという。上級部隊に確認したところ、命令は誤りであったことが判明した。ここでも、現場の将校の冷静な判断が、核戦争の勃発を寸前のところで防いでいたのである。
キューバ危機の教訓に学ぶ
 筆者は冒頭で、キューバ危機を単なる「昔話」とは思えなくなっていると書いた。その理由は、ロシアの「核恫喝」だけではない。米国が来年にも、中国に照準を合わせた地上発射型中距離ミサイルをアジアに配備しようとしているからだ。
 配備先はまだ決定されていないが、射程距離を考えると日本が最有力だ。米本土の喉元に位置するキューバへの中距離ミサイル配備が米国にとって看過できない脅威になったように、日本に米国の中距離ミサイルが配備されれば中国にとっては看過できない脅威となる。中国は「対抗措置」をとると明言しており、米中の緊張が高まるのは必至だ。万が一、キューバ危機のような事態になれば、今度は日本がその舞台になる。
 キューバ危機の時の米ソと同じように、現在の米中も戦争、まして核戦争は望んでいないだろう。しかし、互いに角を突き合わせて一歩も引かぬチキンレースを繰り広げていると、望まぬ戦争が始まってしまう危険性が存在するのである。
 ケネディ大統領も海上封鎖を開始する前日、「なによりも大きな危険は誤算――判断を誤ることだ」と口にしていたという(ロバート・ケネディ著『13日間 キューバ危機回顧録』中公文庫)。米国もソ連も核戦争は望んでいなかった。しかし、誤算や誤認によって双方とも望まぬ戦争のトリガーが引かれ、それが核戦争にまでエスカレートすることをケネディ大統領は最も恐れていた。そして、前述の通り、実際に誤算や誤認によって核戦争が起きていてもおかしくなかったのである。
 米国は、アジアに配備する中距離ミサイルは通常弾頭用で核弾頭の搭載は想定していないと強調しているが、1987年にソ連と中距離核戦力(INF)全廃条約を締結するまで核弾頭用の中距離ミサイルを実戦配備していたことからも、技術的にはいつでも核弾頭を搭載することは可能だ。
 また、中国が2000発以上保有しているとみられる中距離ミサイルは核・非核両用である。
 実際に中距離ミサイルが発射された場合、それが通常弾頭か核弾頭かを識別することは困難である。だからこそ、中距離核戦力(INF)全廃条約では、核弾頭ではなく、その運搬手段であるミサイルの保有を禁止した。しかも、現在米中ともに開発を進める「極超音速(音速の5倍以上)ミサイル」は発射から着弾までの時間が10分程度と極めて短いので、誤算や誤認による核戦争勃発のリスクが高い。
 こうしたリスクを直視するならば、中国との「ミサイル・ギャップ」を埋めるために米国が日本に中距離ミサイルを配備するというのは、「抑止力向上」というメリットだけでは片付けられない。
 地上発射型中距離ミサイルに限って言えば中国が優位に立っているのは事実だが、米国は最大154発のトマホーク巡航ミサイルを搭載できる原子力潜水艦をはじめ、海洋発射型のミサイルでは逆に優位に立っている。
 60年前のキューバ危機の教訓に学ぶのであれば、核戦争のリスクを高めるミサイル軍拡競争へと突入するのではなく、互いに相手にとっての脅威を取り除く軍縮協議こそが緊急に求められているのではないだろうか。》


2022年12月15日
・(ウクライナ戦争を)ロシアやウクライナ問題の専門的な見地を離れて捉え直してみるならば、問題の本質を鋭く抉りだすのが、「無秩序で際限ない軍拡競争」が人類や地球に「壊滅的な結末」をもたらすであろうと世界に向けて警告を発した2018年の国連「軍縮アジェンダ」である。
・驚くべきは、プーチンによる核の恫喝や各種の無人兵器が戦場の主役となっている状況に象徴されるように、上記三領域(核兵器、生物・化学兵器などの大量破壊兵器や宇宙の軍事化、破壊力を増した通常兵器の氾濫による膨大な市民の犠牲、AI兵器やサイバー攻撃など「ゲーム・チェンジの兵器」)の軍縮の課題が今日のウクライナで悲劇的に凝縮されていることである。
・ウクライナの衝撃から軍拡の緊要性を引き出すならば、それは根本的な間違いであり、今回の戦争の本質的な問題が何一つ理解されていない。
・今こそ、国連「軍縮アジェンダ」を正面に掲げ、核兵器の禁止をも含む全面的な軍縮に踏み出すべき時であって、これこそが引き出されるべき最大の教訓である。
・ところが日本では、「ウクライナは明日の台湾」「台湾有事は日本有事」と喧伝され、防衛費のGDP1%や専守防衛、武器輸出の規制といった戦後日本の「三つの呪縛」を突き崩すべく現行の安全保障関連3文書の年内改定に向けて作業が進められており、そこでの議論の焦点が「敵基地攻撃」論である。
・それでは、日本が敵基地攻撃能力を備えたとして、果たして中国の台湾侵攻を止める抑止力となるのであろうか。そもそも中国問題の専門家の一致した見方は、仮に台湾が独立を宣言すれば中国はいかなる犠牲を払っても軍事侵攻するであろうというものであり、従ってここではいかなる抑止力も全く機能しない。
・軍事技術的に言えば、敵基地攻撃はミサイルの発射基地を特定することが大前提であるが、中国の場合「地下の万里の長城」と称されるように長大なトンネル網の中に核兵器やミサイルが格納されているのであり(『Newsweek』 2019年1月15日)、発射基地を見いだすこと自体が事実上不可能である。
・北朝鮮については、一連のミサイル発射にJアラートも対応できない現実を前に、例えば歴代政権で防衛外交関係の委員を担ってきた慶応大の神保謙教授でさえ、「移動式発射台が多くミサイルの発射を事前に探知して撃破するのは困難」であって、ミサイル防衛能力の向上を基本とすべきと指摘している。(『日経新聞』2022年10月5日)つまり、北朝鮮に対しても基地攻撃は現実として不可能なのである。
・これだけ北朝鮮の脅威が喧伝される一方で、岸田政権は「原発の最大限活用」を打ち出した。しかし、本年4月21日に自民党の安保調査会がまとめた敵基地攻撃能力の保有に関する「提言」はウクライナ情勢を受けて、「原子力発電所などの重要インフラ施設への攻撃など、これまで懸念されていた戦闘様相が一挙に現実のものとなっている」と指摘する。実はすでに、日本の原発が空からのミサイル攻撃に耐えられないことは明らかになっている。とすれば、日本の原発の6割近くが日本海側にあるという現状をも踏まえるならば、そもそも原発の再稼働など論外のはずである。今や政権党内で、エネルギー政策と防衛政策が、まさに支離滅裂の状況を呈している。
・岸田政権の敵基地攻撃方針に“お墨付き”を与えるための「有識者会議」が11月下旬に報告書を提出したが、肝心の敵基地攻撃論については「反撃能力の保有と増強が抑止力の維持・向上のために不可欠だ」とわずか1行書かれているだけで、なぜ「不可欠」なのかという論証は皆無である。戦後の防衛政策を大きく転換させ巨額の税金を投じる以上は、国民の理解を得るためにも丁寧で説得的な説明がそれこそ「不可欠」のはずにもかかわらず、余りにも杜撰と言う以外にない。あるいは論証不能ということであろうか。
・仮に2年後にトランプ元大統領が、あるいは彼のような人物が大統領に選出されるならば、いかなる事態が生じるであろうか。人権や民主主義といった価値観とは無縁で、同盟関係を重視せず、ひたすら「米国第一主義」を掲げる政権が再び米国に誕生するならば、敵基地攻撃をめぐる議論の前提が崩れ去るであろう。何より、台湾や日本のために米軍人の血を流すといった選択肢はあり得ないはずである。とすれば、台湾と日本の二国で中国と戦うという構図になるのであろうか。
・以上のように見てくるならば、敵基地攻撃論は余りにも組み立てが粗雑で荒唐無稽と言わざるを得ない。それでは、なぜこうした事態に陥ったのであろうか。それは、そもそもの議論の展開が2020年6月のイージス・アショアの破綻から始まっているからである。この破綻は、早い段階から関係者において性能への根本的な疑問が広く認識されていたにもかかわらず、トランプによる高額の米国製兵器の購入拡大を求められた安倍晋三元首相が現場の声を無視して政治主導で購入を決めたという、無責任外交の当然の結果であった。ところが、この破綻を受けて20年9月に安倍氏が打ち出したのが、ミサイルを阻止するための「新たな方向性」としての敵基地攻撃論であった。つまり、自らの大失態をタカ派の言説で覆い隠そうとしたのである。これまた、究極の無責任と言わざるを得ないが、こうした無責任さによって日本の安全保障の今後が大きく歪められることは、まさに悲劇そのものである。
・普天間問題とは、米軍の低空飛行や機体の墜落などの危険性を除去するために辺野古に新たな基地を建設しそこに普天間を移すという工事をめぐる問題であり、こうした危険性がなお深刻であることは間違いがない。しかし、直面するより大きな危険性とは、普天間が攻撃目標に設定されミサイル攻撃を受けるという危険性に他ならない。とすれば、切迫するこの危険性を除去する上で、辺野古の工事等はいかなる意味も有しないのである。つまり今や、政権側が喧伝してきた普天間問題の構図は崩壊したのであり、すべてはここから再構築されねばならない。
・このように情勢が緊迫の度を深めていくほどに、正面から論じられるべきは国民保護の問題である。南西諸島にあっては、いかに島民の避難を確保するか、その体制作りが喫緊の課題のはずである。しかし、軍事化が急ピッチで進められているにもかかわらず、島民保護の具体策は何ら取り組まれていない。なぜなら、2004年に国民保護法が定められたが、安倍政権のもとで2013年にまとめられた現行の国家安全保障戦略には、そもそも国民保護の視点は皆無だからである。
・彼(横尾和久)は、太平洋戦争史において日本人住民を抱えたまま離島防衛作戦が初めて行われたマリアナ戦史を分析対象に据えるのであるが、それはサイパン、テニアン、グアム島で約3万6千人が「日本近代史上初の、地上戦下の島内避難」を余儀なくされ、残留邦人のおよそ4割から5割の人々が戦闘の巻き添えで犠牲となったからである。この悲惨な歴史から横尾が引き出した教訓は、「軍と民の混在防止」「部隊と住民の分離の徹底」に他ならない。(「マリアナ戦史に見る離島住民の安全確保についての考察」『陸戦研究』2015年12月号)つまり、「軍民分離の原則」の徹底こそが、島民保護の大前提に据えられねばならないのである。
・言うまでもなく、この原則とは真逆の選択がなされた沖縄戦ではさらに悲劇的な結果が招来されたのであったが、恐るべきは、今日の政権が同じ歴史的な過ちを繰り返して南西諸島の住民に犠牲を負わせようとしていることである。今の段階になって政権側は先島諸島などでシェルターの構築に乗りだそうとしているが、「軍民分離の原則」に照らすならば、まさに論外と言う以外にない。
・そもそも、丸裸で防備困難な尖閣を中国が奪取する軍事的な意味合いがどこにあるのかという問題は別として、改めて尖閣問題とは何かを問い直すならば、それは沖縄が1972年に日本に返還される際に米国が尖閣の主権のありかについて「中立」の立場を打ち出したことに根源がある。つまり、尖閣がどこの国に帰属するのか不明確という立場をとった結果、そこを中国が突いてきているのである。ところが日本政府は、こうした無責任きわまりない米国の立場を変更するように公的な申し入れを行ったことは一度もない。
・そもそも尖閣が政治問題として先鋭化した契機は、2012年4月に当時の石原慎太郎・東京都知事がワシントンのタカ派のシンクタンクにおける講演で、尖閣諸島を都が「買い上げる」との方針を打ち出したことにあった。ーーー彼の矛先は中国に向けられ、米国側も認めたように中国を「挑発」するところに主眼があった。つまり、尖閣をめぐって日中間で「軍事紛争」を引き起こし、そこに米軍が「踏み込んでこざるを得なくなる」ような状況をつくりだすことに大きな狙いがあった。まさに「挑発者」そのものであり、野田政権による「尖閣国有化」を経て日中間の対立が激化するに至った。
・台湾有事を日本有事に直結させる議論が展開されているが、そもそも1972年の田中角栄首相の訪中以来、日本は事実上「台湾は中国の一部である」という立場をとってきた。また米国も同様の立場を維持してきた。この限りにおいて、台湾問題は中国の「内政問題」との中国側の主張を否定できないのである。もちろん、台湾が事実において中国から独立していることは間違いないが、しかし日本は外交的な承認を与えている訳でもないし、ましてや同盟関係にある訳でもない。
・台湾の多くの人びとが台湾を「アジアのウクライナ」にしたくない、戦場となりたくないと考えていることは間違いないであろう。とすればここで重要なことは、「台湾有事」が喧伝され煽られる際に、実は当事者である台湾人が何を考えいかなる道を選択しようとしているのか、という肝心要の問題への考察が欠落していることである。つまり、台湾抜きの「台湾有事」論が一人歩きしているのである。
・こうした危機的な情勢展開をうけて米国では、安易に戦争にのめり込むことへの警戒感が高まってきた。かくして台湾問題についても、表向きの強硬論とは別に、中国との間で“軟着陸”をはかる動きが歩みを始めた。従って、そもそも日本の中国への「敵基地攻撃」も容認しないであろう。しかしながら他方で、日米安保の枠組において最も御しやすい日本に対しては、ひたすら危機を煽り日米合同の大規模な軍事演習を繰り返し、その上で何よりも高額な兵器の購入を求め続けるのである。以上のように見てくるならば、事実上日本だけが“突出”して「台湾有事」論を煽りたてている、という構図が鮮明に浮かび上がってくる。
・仮に戦争が泥沼状態に陥れば習体制は崩壊の危機に瀕すると見通しているのであろう。とはいえ、そもそも習近平がいつ戦争を決断するか、さらにはバイデンや米国側が中国との戦争に踏み出すか、あるいは米中間で何らかの“妥協”が見いだされるか、いずれも不確実そのものであり、おそらく当事者でさえ分かっていないであろう。
・こうした不確実で不安定な情勢のなかで、唯一確実で明確なことがある。それは、ASEANを始め周辺諸国が打ち出しているところの、「米中対決、米中戦争に巻き込まれたくない」という絶対的な立ち位置である。例えばシンガポールのシェンロン首相は、「いかに戦争は馬鹿げたことか」「始めることは簡単としても結末は悲劇的である」と指摘し、あくまで戦争を回避すべきと訴える。(『日経新聞』2022年5月26日)こうしたASEAN諸国の動向は、国際的にも「新たな非同盟主義」の潮流として位置づけることができよう。
・改めて考えてみれば、仮に日本が中国に「敵基地攻撃」をかけ戦争となった場合、南西諸島の145万人を越える住民ばかりではなく、中国進出の1万2千社の企業、12万人の在留邦人、2万人の台湾在留邦人の運命はどうなるのであろうか。この現状を踏まえるならば、とり得る選択肢は戦争回避以外にあり得ない。
・日本は、ASEANや周辺諸国との間で「戦争回避コアリション」とも言うべき提携関係を構築し、米中両国に戦争の回避を強く働きかけるべきである。仮に日本が正面から「戦争回避」を求める方針を打ち出すならば、東アジアに新たな秩序を生み出す契機として大きな反響を呼び起こすことは間違いない。日本自身が煽りたて、あるいは米国によって煽りたてられて「不要なケンカ」にはまり込むという馬鹿げた事態に国家と国民を直面させないためには、戦争回避の方針を選択する以外の道はないはずである。
・ストックホルム国際平和研究所によれば、2021年度の世界の軍事費総額は2兆1130億ドル(1ドル145円換算で約306兆円)と、初めて2兆ドルを突破したという。今回のウクライナ戦争を受けて、22年度の軍事費がどこまで膨れあがるか、想像を越えるものがある。さらには、軍事への投資こそが侵略を抑え「持続可能な社会」を保障するものだ、といった論調が強まるかも知れない。こうなれば、SDGsは文字通り“死に体”となろう。
・今やまさに、決定的な分岐点である。右のような論調が勝つか、あるいは、軍拡と戦争がいかに愚かで人類と地球の破滅をもたらすことになるという主張が勝つか、鍵は国際世論の動向にかかっている。そうであれば、SDGsの実現と「軍縮アジェンダ」を結合させる方向で新たな国際秩序を再構築していくといった大胆な構想も提起されるべきであろう。
・際限ない軍拡競争を止めるためには、国際社会においていずれかの主体が軍拡の動きを軍縮に向けて逆回転させる方向に踏みださねばならない。本来であれば、防衛費GDP1%、専守防衛、兵器輸出の規制といった枠組みをとにかくも維持してきた日本が主導せねばならないはずである。
・数兆円も要するというこうした構想(「極超音速誘導弾」)の根本的な誤りは、今後の10年間において相手側が現状のままに止まっているであろう、と想定していることである。まず間違いなく断言できることは、日本が「極超音速ミサイル」を開発した段階においては、相手側は「極極」超音速ミサイルを実戦配備しているであろう、ということである。つまり、新たな兵器の開発をどこまで進めても抑止にはなりえず逆に危機が増幅され、結局のところ軍需産業だけが肥え太るのである。まさに愚行の極致である。
・国連「軍縮アジェンダ」の表紙を飾るのはヒロシマを象徴する「平和の折り鶴」である。この原点にたつならば、日本こそ馬鹿げた軍拡競争から率先しで離脱すべきである。さもなければ、すでに先進国でも最悪の財政危機にある現状を見るとき、旧ソ連のように、軍拡によって経済が破産し国家が破綻する道に陥るであろう。
 ウクライナ戦争の教訓を見誤り、内容を伴わない数字だけのGDP2%化43兆円と財源をめぐる増税か国債発行かの自民党内の愚かしい議論。岸田政権下で繰り広げられる、子供の兵器玩具遊びを大の大人がするような破綻した「敵基地攻撃能力(反撃能力)保持」「防衛費GDP2%化」政策論議に対する、豊下 楢彦元関西学院大教授が沖縄のメディアに寄せた包括的な批判の論考。
 国連創設の目的であり人類共通の願いである戦争防止と軍備管理・軍縮、平和構築に離反し、気候変動対策や教育・福祉予算ではなく軍備拡大に莫大な予算を投じて、相互の軍拡による戦争で国民の被害の甚大化と経済の衰退を招くだけの、まさに平和憲法も「専守防衛」「武器輸出禁止」もかなぐり捨てて、対中国・北朝鮮との軍拡競争に突入しようとするカルト癒着政権の荒唐無稽な姿が浮かび上がる。
 終戦の年の生まれの豊下氏が指摘するように、日本こそ過去の歴史を学び馬鹿げた軍拡競争から率先しで離脱すべきであり、東アジアで米中両国に戦争の回避を強く働きかけるべきなのだ。
《ウクライナ戦争を奇貨として日本政府は、戦後の防衛政策の大転換となる「敵基地攻撃能力」の保持に踏みだし、今後5年間で防衛費に43兆円もの巨費を投入するという防衛力整備計画を打ち上げた。しかし、こうした大軍拡の方針は、ウクライナ戦争から誤った結論を導き出したと言わざるを得ない。この戦争の歴史的な背景については無数の論争が交わされているが、概ね二つの見方に分けることができるであろう。一つは、ロシア帝国の再現を夢想するプーチンの野望の現れとする見方であり、二つは、侵略を批判しながらも米国主導の「NATOの東方拡大」がプーチンを追い込んだとする見方である。おそらく現実は、これら二つの要素が複雑に交錯して戦争が展開されているのであろう。
 ただ、こうしたロシアやウクライナ問題の専門的な見地を離れて捉え直してみるならば、問題の本質を鋭く抉りだすのが、「無秩序で際限ない軍拡競争」が人類や地球に「壊滅的な結末」をもたらすであろうと世界に向けて警告を発した2018年の国連「軍縮アジェンダ」である。(UN Agenda for Disarmament, 2018)そこでは国連が取り組むべき「課題の核心」として、核兵器、生物・化学兵器などの大量破壊兵器や宇宙の軍事化に対処する「人類を救う軍縮」、破壊力を増した通常兵器の氾濫による膨大な市民の犠牲に対処する「生命を救う軍縮」、さらにはAI兵器やサイバー攻撃など「ゲーム・チェンジの兵器」に対処する「将来世代のための軍縮」が掲げられている。
驚くべきは、プーチンによる核の恫喝や各種の無人兵器が戦場の主役となっている状況に象徴されるように、上記三領域の軍縮の課題が今日のウクライナで悲劇的に凝縮されていることである。ウクライナの衝撃から軍拡の緊要性を引き出すならば、それは根本的な間違いであり、今回の戦争の本質的な問題が何一つ理解されていない。ウクライナ戦争は、最新兵器の「ショールーム兼実験場」と称されるように、際限ない無秩序な軍拡競争の行き着く果てを示しているのである。
英紙『フィナンシャル・タイムズ』(2022年4月29日付)はプーチンによる核使用の可能性の問題にふれるなかで、「世界のほとんどの人にとって、これまで生きてきた中で最も危険が大きくなっている」と警鐘を鳴らした。「軍縮アジェンダ」が提起した、人類と地球の「壊滅的な結末」というシナリオが現実のものになりつつある、ということであろう。今こそ、国連「軍縮アジェンダ」を正面に掲げ、核兵器の禁止をも含む全面的な軍縮に踏み出すべき時であって、これこそが引き出されるべき最大の教訓である。
「台湾独立」と抑止力
ところが日本では、「ウクライナは明日の台湾」「台湾有事は日本有事」と喧伝され、防衛費のGDP1%や専守防衛、武器輸出の規制といった戦後日本の「三つの呪縛」を突き崩すべく現行の安全保障関連3文書の年内改定に向けて作業が進められており、そこでの議論の焦点が「敵基地攻撃」論である。敵のミサイル発射基地にとどまらず指揮統制機能(中枢)をも攻撃対象に据え、こうした能力を日本が保持することによって敵の攻撃を抑止する、という構想である。具体的には、「相手側に明確に攻撃の意図があって、既に着手している状況」において攻撃を加えるということであるから、例えていえば、ウクライナ国境地帯にロシア軍が大量に集結し攻撃に踏み切ろうとした段階で、ウクライナがモスクワに攻撃を加える、というイメージであろうか。
 ちなみに、本年9月8日に北朝鮮は最高人民会議で核兵器の使用条件に関する新たな法令を採択したが、そこでは「相手から攻撃や攻撃が差し迫ったと判断される場合」に核兵器を使用する、と定められた。この新たな使用条件について国際社会は、北朝鮮が「核の先制攻撃」に踏み込んだ、と評した。
 それでは、日本が敵基地攻撃能力を備えたとして、果たして中国の台湾侵攻を止める抑止力となるのであろうか。そもそも中国問題の専門家の一致した見方は、仮に台湾が独立を宣言すれば中国はいかなる犠牲を払っても軍事侵攻するであろうというものであり、従ってここではいかなる抑止力も全く機能しない。中国に対する見方が余りにも“甘い”と言わざるを得ない。しかし逆に言えば、問題の核心は独立か否かという、すぐれて政治外交的な問題にあることが確認されるのであり、関係諸国は独立への動きを抑えねばならないはずである。
ところが、8月のペロシ米下院議長による台湾訪問は情勢を一気に緊迫化させる結果を招いた。レガシーづくりのパフォーマンスは挑発行為そのものである。ところが、新たなマッカーシー議長も来春には議員団を引き連れて訪台すると報じられている。米議会で審議中の「台湾政策法案」とも相まって、こうした行為は台湾を文字通り独立国家として扱うという「一方的な現状変更」を意味し、中国側の激烈な反発を招き、台湾情勢は危機的な事態に直面するであろう。いずれにせよ、台湾が独立に踏み切れば中国は、それこそ毛沢東ではないが何億の人民が犠牲になろうが軍事侵攻することは間違いなく、日本がどれだけ敵基地攻撃能力を開発しても、それを抑止することはできないのである。
不可能な「敵基地攻撃」
次いで軍事技術的に言えば、敵基地攻撃はミサイルの発射基地を特定することが大前提であるが、中国の場合「地下の万里の長城」と称されるように長大なトンネル網の中に核兵器やミサイルが格納されているのであり(『Newsweek』 2019年1月15日)、発射基地を見いだすこと自体が事実上不可能である。さらに重要な問題は、米国の核問題の専門家の指摘によれば、通常兵器での攻撃であっても中国側は核抑止力への攻撃と解釈し核兵器による反撃に乗り出す、というのである。(ブラッド・ロバーツ『正しい核戦略とは何か』2022年)とすれば、日本が中国の基地に攻撃を加える場合は「核反撃」を覚悟しておかねばならない。しかし、政府・自民党・防衛省の議論をみるならば、そもそもこうした覚悟は微塵も見受けられない。
 また北朝鮮については、一連のミサイル発射にJアラートも対応できない現実を前に、例えば歴代政権で防衛外交関係の委員を担ってきた慶応大の神保謙教授でさえ、「移動式発射台が多くミサイルの発射を事前に探知して撃破するのは困難」であって、ミサイル防衛能力の向上を基本とすべきと指摘している。(『日経新聞』2022年10月5日)つまり、北朝鮮に対しても基地攻撃は現実として不可能なのである。ちなみに、同じく歴代政権の安全保障問題に深くかかわってきた北岡伸一・JICA理事長は、「北朝鮮にとって最も重要なのは、日本からの巨額の資金の獲得なので、対日攻撃の可能性は低い」と断じている。(『中央公論』2021年4月号)
この見方にたてば、Jアラートさえ不要、ということになろう。
ところで、これだけ北朝鮮の脅威が喧伝される一方で、岸田政権は「原発の最大限活用」を打ち出した。しかし、本年4月21日に自民党の安保調査会がまとめた敵基地攻撃能力の保有に関する「提言」はウクライナ情勢を受けて、「原子力発電所などの重要インフラ施設への攻撃など、これまで懸念されていた戦闘様相が一挙に現実のものとなっている」と指摘する。実はすでに、日本の原発が空からのミサイル攻撃に耐えられないことは明らかになっている。とすれば、日本の原発の6割近くが日本海側にあるという現状をも踏まえるならば、そもそも原発の再稼働など論外のはずである。今や政権党内で、エネルギー政策と防衛政策が、まさに支離滅裂の状況を呈している。
“荒唐無稽”の背景
岸田政権の敵基地攻撃方針に“お墨付き”を与えるための「有識者会議」が11月下旬に報告書を提出したが、肝心の敵基地攻撃論については「反撃能力の保有と増強が抑止力の維持・向上のために不可欠だ」とわずか1行書かれているだけで、なぜ「不可欠」なのかという論証は皆無である。戦後の防衛政策を大きく転換させ巨額の税金を投じる以上は、国民の理解を得るためにも丁寧で説得的な説明がそれこそ「不可欠」のはずにもかかわらず、余りにも杜撰と言う以外にない。あるいは論証不能ということであろうか。
この報告書で興味深いのは、米国による拡大抑止の信頼性の向上に加え、日米間の「共同対処能力」の強化が謳われていることである。つまり、敵基地攻撃論は日米「共同対処」の枠組みにおいて構想されているのである。この前提にあるのは、バイデン政権のように関係諸国との同盟関係を固め中国包囲網の構築に余念がない政権が米国において継続する、という認識であろう。しかし、仮に2年後にトランプ元大統領が、あるいは彼のような人物が大統領に選出されるならば、いかなる事態が生じるであろうか。人権や民主主義といった価値観とは無縁で、同盟関係を重視せず、ひたすら「米国第一主義」を掲げる政権が再び米国に誕生するならば、敵基地攻撃をめぐる議論の前提が崩れ去るであろう。何より、台湾や日本のために米軍人の血を流すといった選択肢はあり得ないはずである。とすれば、台湾と日本の二国で中国と戦うという構図になるのであろうか。
 以上のように見てくるならば、敵基地攻撃論は余りにも組み立てが粗雑で荒唐無稽と言わざるを得ない。それでは、なぜこうした事態に陥ったのであろうか。それは、そもそもの議論の展開が2020年6月のイージス・アショアの破綻から始まっているからである。この破綻は、早い段階から関係者において性能への根本的な疑問が広く認識されていたにもかかわらず、トランプによる高額の米国製兵器の購入拡大を求められた安倍晋三元首相が現場の声を無視して政治主導で購入を決めたという、無責任外交の当然の結果であった。ところが、この破綻を受けて20年9月に安倍氏が打ち出したのが、ミサイルを阻止するための「新たな方向性」としての敵基地攻撃論であった。つまり、自らの大失態をタカ派の言説で覆い隠そうとしたのである。これまた、究極の無責任と言わざるを得ないが、こうした無責任さによって日本の安全保障の今後が大きく歪められることは、まさに悲劇そのものである。
ところで先述の自民党の「提言」はイージス・アショアの破綻を受けて、「ミサイル技術の急速な変化・進化により迎撃は困難となってきており、迎撃のみではわが国を防衛しきれない恐れがある」との認識を披瀝している。それでは、日本の防衛力の“脆弱性”を政権党が内外に公言しているときに、なぜ相手側は攻撃してこないのであろうか。なぜ、この絶好の機会を活かそうとしないのであろうか。そもそも相手側に攻撃する意図がないのであろうか。このように問い詰めていくと、今日の軍事論の深刻な陥穽が明らかとなってくる。
「軍民分離」の原則
「台湾有事」が喧伝されるなかで、南西諸島の軍事強化が急激に進みつつある。11月中旬には、沖縄本島から与那国島までを実戦場とする初の日米共同統合演習「キーン・ソード23」が展開されたが、こうした演習は明らかに南西諸島全域が戦場となることを想定したものである。
 沖縄をめぐる深刻な情勢展開を踏まえつつ、筆者は本年2月1日付けの『琉球新報』に小文「崩壊した「普天間問題」の構図」を掲載した。そこで強調したことは、普天間の危険性とは何か、という問題である。つまり普天間問題とは、米軍の低空飛行や機体の墜落などの危険性を除去するために辺野古に新たな基地を建設しそこに普天間を移すという工事をめぐる問題であり、こうした危険性がなお深刻であることは間違いがない。しかし、直面するより大きな危険性とは、普天間が攻撃目標に設定されミサイル攻撃を受けるという危険性に他ならない。とすれば、切迫するこの危険性を除去する上で、辺野古の工事等はいかなる意味も有しないのである。つまり今や、政権側が喧伝してきた普天間問題の構図は崩壊したのであり、すべてはここから再構築されねばならない。
このように情勢が緊迫の度を深めていくほどに、正面から論じられるべきは国民保護の問題である。南西諸島にあっては、いかに島民の避難を確保するか、その体制作りが喫緊の課題のはずである。しかし、軍事化が急ピッチで進められているにもかかわらず、島民保護の具体策は何ら取り組まれていない。なぜなら、2004年に国民保護法が定められたが、安倍政権のもとで2013年にまとめられた現行の国家安全保障戦略には、そもそも国民保護の視点は皆無だからである。
 筆者は昨年6月21日の『オキロン』に「沖縄の戦場化と国民保護法」を上梓したが、そこで着目したのが、自衛隊の研究本部総合研究部に属する横尾和久の研究である。彼は、太平洋戦争史において日本人住民を抱えたまま離島防衛作戦が初めて行われたマリアナ戦史を分析対象に据えるのであるが、それはサイパン、テニアン、グアム島で約3万6千人が「日本近代史上初の、地上戦下の島内避難」を余儀なくされ、残留邦人のおよそ4割から5割の人々が戦闘の巻き添えで犠牲となったからである。この悲惨な歴史から横尾が引き出した教訓は、「軍と民の混在防止」「部隊と住民の分離の徹底」に他ならない。(「マリアナ戦史に見る離島住民の安全確保についての考察」『陸戦研究』2015年12月号)つまり、「軍民分離の原則」の徹底こそが、島民保護の大前提に据えられねばならないのである。
言うまでもなく、この原則とは真逆の選択がなされた沖縄戦ではさらに悲劇的な結果が招来されたのであったが、恐るべきは、今日の政権が同じ歴史的な過ちを繰り返して南西諸島の住民に犠牲を負わせようとしていることである。今の段階になって政権側は先島諸島などでシェルターの構築に乗りだそうとしているが、「軍民分離の原則」に照らすならば、まさに論外と言う以外にない。ーーーー



2022年12月14日
東京最終日、朝から晴れ。
 東京トレッキング・徘徊?のつもりで桜坂から渋谷駅界隈を経て、昨夕見つけた神南公園跡地の渋谷カフェで紅葉を見ながら紅茶。代々木公園を銀杏の落ち葉を踏みながら歩くと保育園児らも引率されて楽しげに来ていた。
 表参道の小路を辿り昼はラ・ボエームでランチビールとワイン、コーヒーも付けて1700円。給仕係は一人で奮闘していた。食後参道で縁もゆかりもないGUCCI前だがよく来ていた欅?の大木を見て青山通りを越えて再び小路を歩く。冬に見ると枝を人間の都合で切られて痛々しい桜の木の前のカフェテラスで一休みし、小路巡りをして3時にやはり銀杏が色付く原宿駅前。
 在住しているとあまり気づかなかったが、東京は公園が広く通りも自然豊か。私鉄は通常料金の神戸と違い山手、京急を半額で乗り継ぎ4時に羽田。夕景を見ながら搭乗口手前で早めに夕食を食べてスカイマークで7時過ぎ神戸空港、8時過ぎ帰宅。長尾さんの神通力のおかげか、体調は良好。
追記。京急羽田品川間はカード使用時292円、京王渋谷吉祥寺間は199円でいずれも通常料金だった。妙に安いので割引と勘違い。




2022年12月13日
東京二日目朝は小雨。
 駅まえの宿を出て井の頭線で高井戸に行き、3年前長尾さん宅に泊まった翌日初めて訪ねた美しの湯に浸かる。お昼は下北沢のラ・ベフアーナで10年ぶりに。
 京王など都の私鉄は敬老パスで半額を利用して東松原に戻り、小雨のなか10年前まで30年ほど住んだ住所近くの羽根木公園を訪ねた。
 桜並木や梅の咲く頃はよく来たが、銀杏の落葉で黄色い絨毯のこの時期はあまり来なかったのを反省。陽が差すなか黄色い絨毯を一通り歩いて駅に戻り、夕方渋谷の櫻坂近くの宿。
 渋谷の街中を久しぶりに歩き夕飯は汁物でと、揚州麺の店で野菜麺を頂き帰路に着くと、櫻道は桜色の灯りに。夜渋谷の景色はやはり雑然としている。
追記。京王などは敬老パス半額ではなかった。割安ではあるが。


2022年12月12日
朝神戸からスカイマークピカチュー便。京都市街や富士山を見ながら羽田着。
 渋谷から井の頭線で12時まえ吉祥寺に着く。docomoで働く卒業生に挨拶して、以前たまに寄っていた鰻店で鰻丼。界隈を歩き、テラスのカフェを訪ねるが見当たらず、ドトールで頂く。
 午後西武バスに乗り保谷こもれびホール長尾さん一周忌追悼演奏会。
 原荘介、北川翔、ロシア民族楽器オケなど錚々たるひとたちの長尾さんを偲ぶ語りと演奏。息子さんの演奏ではお孫さんたちも舞台に上がり、最後は全員でベッサメムーチョを合唱。笑いも絶えず、長尾さんがステージに居るような時間。
 吉祥寺に戻り、長尾さんたちとよく来た魚真でひとり夕飯。8時まえ駅南隣の宿に着く。



2022年12月10日
日記がわりに。
 6日地元の各湯の入り納めに夙川からさくらやまなみバスで有馬。久しぶりにポルトガルでガラス製作の修行をしたマスターの堂加亭でお昼。サラダランチが絶品、そしてビールカップも照明グラスもいい雰囲気。寒いスプリングテラスでコーヒーのあと川沿いの有馬御苑に浸かり、来た道を帰る。
 ウクライナはロシアによる違法・非道な民間ライフラインへの攻撃で電気、ガス、水道のない中の生活を強いられている。
 8日晴れて暖かく、午後アシスト車で石屋川沿いを降り阪神御影の店で食材買って帰宅。ロシアはウクライナに核弾頭搭載可能なミサイルを打ち込み、ひとびとは公園で給水して耐えている。
 今日も晴れ、三週ぶりに地元il ventoを訪ねるとすでに二組待ち人あり。どうにか入れてあとは予約で満席。浸かり納めで春日野道を経てなぎさの湯に浸かり、食材買って帰宅。



2022年12月10日
「幼少期から学生時代にかけて、貧しい暮らしを強いられ、親戚からのおこづかい、お年玉をもらっても没収され、親からも当然ありませんでした。誕生日、クリスマスプレゼント、小学校の卒業アルバムなどはお金がないため、買ってもらえませんでした。
 服はお下がりで、美容院等へは行かせてもらえず、小学校1年生の頃から見た目のまずさからいじめに遭いました。20歳の成人式にいたっては興味がないと言われ、してもらえませんでした。
 両親が親戚中を勧誘したり、お金を要求したり、そのことで怒られているところも見てきました。また、高校生から始めた5年間のアルバイト代200万円ほどの給与も没収され、一度も返ってきませんでした」
「礼拝ではサタンや天国地獄を使って脅す教育を受けます。私は18歳の頃、統一教会の公職者からセクハラを受け、その理由はあなたに悪霊がついているからだと言われて韓国の清平に除霊をしに行きますが、そこで精神崩壊する信者さんたちを複数見て自分も精神が崩壊して精神疾患を負い、精神病棟に入院しました」
「私は両親と統一教会のことで何年も悩まされて、死にたいと思うぐらい苦しんできたため、正直もう統一教会のことは忘れたいと思っていました。
 しかし、(安倍晋三元首相が銃撃された)事件後にたくさんの方の被害があることを知り、また4月に子どもも生まれて、その子に、また同世代の子どもたちに、もう同じような被害に遭ってほしくないと思って、顔を出して発信を、発言を始めました。そしてたくさんの助けてほしいという被害者の悲愴(ひそう)な声も寄せられました」
「私はそういった声を国や政府に届けたいと思い、今年9月から献金被害を中心にアンケート調査を実施しました。現役信者、元信者が対象です。約60件の被害報告が集まりました。一部抜粋いたしますが、主な被害として貧困、金銭の要求、教育費を使い込まれ進学に影響が出た、親の老後の不安、ネグレクト、信仰的な強制、脅迫などです」
「ーーーあまりにもつらい内容が多くて、私は読んでいて体調が悪くなりました。このアンケートはただの被害報告ではありません。国によって放置された被害の事例です。そのことを重く受け止めていただきたいです。
 このようなたくさんの被害の訴えによって作られた被害者救済法案だと思いますが、その課題についても、あえてお話しさせていただきます」
「今回の法案の最大の積み残し課題は子どもの被害が現実的には全く救済できないということです。2世は声を上げることができないので、子どもの被害防止救済が、来年の国会で宗教的な児童虐待を防止する法案を与野党で協力して成立させるようにお願いしたいです」
「具体的な例として、マインドコントロール下にあって韓国へ嫁いだ日本人被害者の問題や信仰の強制、養子縁組に見られる宗教2世の権利侵害や、そういった親から逃げる場所がない問題、劣悪な環境で育った宗教2世が精神的な診療を必要としていたり、老後資金のない親を介護しなければいけない問題、また12月9日発売の文芸春秋の指摘によれば、米国防総省情報局の報告書に、北朝鮮の金日成と旧統一教会の教祖である文鮮明の関係や、4500億円の資金援助をはじめ毎年巨額の資金が送金され、核兵器やミサイル開発資金となっているとの指摘があるとのことです」
「これだけ被害者を出している悪質な団体が活動の一時停止もなく、今日も国から税制の優遇を受けているということはあってはならないことだと思います。これだけ被害者を生み出した、被害を見過ごしてきた政府の政府としての責任を果たし、早急の対応をお願いいたします」
「そして、この法案の成立にあたっては、被害者が何度も被害を訴え、そのたびに現役信者や一般の方から攻撃され、自分の経験を話すだけでも深く傷つき、皆が体調を崩しながらも訴え続けてきました。
 それは政府が本当に動いてくれるのか信じられない、被害拡大の張本人の与党側にそのような動きが見られないから、被害者がそこまでやるしかなかったという事実を忘れないでいただきたいです」
「今後は積極的な政府の被害救済に期待いたします。私は毎日、現役信者や一部の方々からうそつき偽善者と言われて、その言葉を意見の一つとして受け止めようとしましたが、自分の器では到底受け止めきれず、死んだ方がマシなぐらい体調を崩したときもありました」
 9日参院消費者問題特別委員会に参考人として出席した旧統一教会の元2世信者小川さゆりさんの勇気ある陳述から。
 カルト集団による違法な高額献金の防止は当然必要だが、教団と親による子ども・宗教2世への信仰の強要とさまざまな虐待・人権侵害を含め、それらの活動を教団と癒着して長年放置してきた自民党と政府には重大な責任がある。
 小川さんも指摘するように文春は8日「〈ペンタゴン文書入手〉北朝鮮ミサイル開発を支える統一教会マネー」で、91年11~12月に文鮮明が北朝鮮を訪問し、金日成との会見をして4500億円の巨額の資金を寄贈したとの情報を米国防総省情報局(DIA)が掴んでいたと報じた。
「4500億円の相当部分が軍事関連に費消されたと思います。当時、教会内部でも幹部の間でそのような観測が出ていましたから」統一教会元幹部
 この日本信者の献金が韓国から北朝鮮に渡っていたことは、すでに鈴木エイト氏らが指摘し国会でも言及されていたことだが、米国の公文書で確認された意味は大きい。
 統一教会は宗教法人として認証された1964年、岸元首相の自宅(東京都渋谷区南平台町)の隣で岸が首相の時官邸だった建物に本部を設置。以来右翼の日本船舶振興会会長笹川良一らとともに関係を深め、教祖文鮮明が米国で1982年脱税犯として1年半の実刑判決を受けた際には、岸信介が書簡で米大統領ロナルド・レーガンに文鮮明の“釈放”を要請し、92年出入国管理法で入国できないはずの文が来日の際は自民党副総裁金丸信が法務省に圧力をかけて入国させるなど、自民党中枢はこのカルト教団に深く関与し続けている。
 統一教会は自民党議員に選挙応援や議員秘書に信者を送り込むなどし、近年の国会議員選挙では岸の孫で元首相安倍晋三が統一教会票を安部派議員に差配、八王子では現政調会長萩生田の選挙応援を続けるなど、癒着を深めた。
 その岸・安倍を中心とする自民党こそカルト教団による高額献金や生活破壊そして2世信者への重大な人権侵害の共犯者であり、「被害拡大の張本人の与党」はまた、北朝鮮のミサイル開発への文鮮明による日本の信者の献金をもとにした支援も放置していたということ。この国の政治の深い闇が浮かびあがろうとしている。
 違法な献金の防止として被害者救済新法を成立させるだけではなく、この教団への解散命令と教団による重大な人権侵害を受けた2世信者の迅速な被害救済の制度を構築し、政府与党そして行政のこのカルト集団との癒着を徹底して解明し、政策を根底から見直すこと。これができないなら、自民党自体が解散すべきだ。
《「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の元2世信者で、宗教2世の子どもの窮状などを訴えている小川さゆりさん(仮名)が9日、被害者救済新法案を審議している参院消費者問題特別委員会に参考人として出席し、宗教2世の救済を訴えた。
 小川さんは「今回の法案の最大の積み残しの課題は、子どもの被害が現実的には全く救済できないということ」と指摘。その上で、宗教2世の子どもの被害防止・救済のために、「来年の国会で宗教的な児童虐待を防止する法案を与野党で協力して成立させるようにお願いしたい」と訴えた。
 小川さんら被害者が自ら公の場に出て被害を訴えている現状にも触れ、「自分の経験を話すだけでも深く傷つき、体調を崩しながらも訴え続けてきた。それは被害拡大の張本人の与党側に(積極的な)動きが見られないから、被害者がそこまでやるしかなかったという事実を忘れないでいただきたい。今後は積極的な政府の被害救済に期待いたします」と述べた。
◇小川さんの意見陳述は以下の通り。
 旧統一協会の元2世信者の小川さゆりと申します。本日はよろしくお願いいたします。まだ幼い子どもと家庭がありますので、小川さゆりという名前が実名ではないことをお許しください。
 今回、短期間で新法を作り上げてくださった政府、与野党、官僚の皆様に心から感謝いたします。まずは恐縮ですが、私のことについてお話しさせていただきたく思います。
 私の両親は20歳前後の頃、旧統一教会に入信し、合同結婚式で結婚しました。父は元教会長、母は政治面でも教会から出馬した議員の選挙活動を手伝ったり、ウグイス嬢をしたりと、双方がとても熱心な信者でした。私はそこから生まれた2世信者で、現在は脱会しております。
 次に両親が信者であったために私が受けてきた被害についてお話しいたします。
 幼少期から学生時代にかけて、貧しい暮らしを強いられ、親戚からのおこづかい、お年玉をもらっても没収され、親からも当然ありませんでした。誕生日、クリスマスプレゼント、小学校の卒業アルバムなどはお金がないため、買ってもらえませんでした。
 服はお下がりで、美容院等へは行かせてもらえず、小学校1年生の頃から見た目のまずさからいじめに遭いました。20歳の成人式にいたっては興味がないと言われ、してもらえませんでした。
 両親が親戚中を勧誘したり、お金を要求したり、そのことで怒られているところも見てきました。また、高校生から始めた5年間のアルバイト代200万円ほどの給与も没収され、一度も返ってきませんでした。
 両親はこのような生活状況にもかかわらず、私たちきょうだいに一切相談なく、教会への高額な献金を繰り返してきました。そういった献金につながる教育は幼少期から強制的に行われていきます。
 献金の歌を毎週歌わされました。感謝の献金、神の国を建てるため、真心を込めて捧げますという歌詞が入っていました。意味もわからず毎週その歌を歌って献金箱に100円を入れていました。
 また私がお配りした資料の1のですね、レジュメの写真にある通り、礼拝ではサタンや天国地獄を使って脅す教育を受けます。私は18歳の頃、統一教会の公職者からセクハラを受け、その理由はあなたに悪霊がついているからだと言われて韓国の清平に除霊をしに行きますが、そこで精神崩壊する信者さんたちを複数見て自分も精神が崩壊して精神疾患を負い、精神病棟に入院しました。
 退院後も、うつ症状とパニックを起こして救急車で複数回運ばれました。またもう一度入院もしました。
 そんな中、両親は協会活動を平然と続け、当時体調を崩し引きこもっていた私のことを家にお金も入れないでいつになったら働いてくれるのかと、お金のアテにしか思われていなかったことを知り、限界を感じ、家を出た後に脱会しました。
 私は両親と統一教会のことで何年も悩まされて、死にたいと思うぐらい苦しんできたため、正直もう統一教会のことは忘れたいと思っていました。
 しかし、(安倍晋三元首相が銃撃された)事件後にたくさんの方の被害があることを知り、また4月に子どもも生まれて、その子に、また同世代の子どもたちに、もう同じような被害に遭ってほしくないと思って、顔を出して発信を、発言を始めました。そしてたくさんの助けてほしいという被害者の悲愴(ひそう)な声も寄せられました。
 私はそういった声を国や政府に届けたいと思い、今年9月から献金被害を中心にアンケート調査を実施しました。現役信者、元信者が対象です。約60件の被害報告が集まりました。一部抜粋いたしますが、主な被害として貧困、金銭の要求、教育費を使い込まれ進学に影響が出た、親の老後の不安、ネグレクト、信仰的な強制、脅迫などです。
 さらに事例を詳しく一部紹介すると、信仰を強制され、不登校になった、信仰を破ると罰を受けた、きょうだいに学費を使い込まれ、弟の学費を肩代わりした。きょうだいが養子に出された、私自身も実のきょうだいが2人養子に出されております。
 妊娠中にも子どもを材料に霊能者に脅迫され高額献金したという方、大学に行っていないのに奨学金を借りて生活費に使われた方、この方は、妹2人の学費を稼いで肩代わりしましたが、結局、親は自己破産しました。
 アンケートは資料としてお配りしておりますので、お時間のある時にぜひご覧いただきたいです。
 あまりにもつらい内容が多くて、私は読んでいて体調が悪くなりました。このアンケートはただの被害報告ではありません。国によって放置された被害の事例です。そのことを重く受け止めていただきたいです。
 このようなたくさんの被害の訴えによって作られた被害者救済法案だと思いますが、その課題についても、あえてお話しさせていただきます。
 まず大前提として、この新法が本当に裁判で実効性を伴うのか検証していただきたいことと、見直しの期間を1年にして、また、検討部会を今すぐ立ち上げていただきたいです。
 今回の法案の最大の積み残し課題は子どもの被害が現実的には全く救済できないということです。2世は声を上げることができないので、子どもの被害防止救済が、来年の国会で宗教的な児童虐待を防止する法案を与野党で協力して成立させるようにお願いしたいです。そのほか、今後の被害者救済法案の改善点は全国弁連(全国霊感商法対策弁護士連絡会)の声明に同じですので、割愛いたします。
 被害者救済法案は、あくまでも献金の問題を解決しようとするものであり、問題はそれだけでは全くございません。
 残った課題についても、そして、統一教会の解散についても議論を続け、早急にご対応をいただきたいです。資料として、日本外国特派員協会での会見時に使用した資料を一部書き換えたものを配布しておりますのでご覧ください。
 具体的な例として、マインドコントロール下にあって韓国へ嫁いだ日本人被害者の問題や信仰の強制、養子縁組に見られる宗教2世の権利侵害や、そういった親から逃げる場所がない問題、劣悪な環境で育った宗教2世が精神的な診療を必要としていたり、老後資金のない親を介護しなければいけない問題、また12月9日発売の文芸春秋の指摘によれば、米国防総省情報局の報告書に、北朝鮮の金日成と旧統一教会の教祖である文鮮明の関係や、4500億円の資金援助をはじめ毎年巨額の資金が送金され、核兵器やミサイル開発資金となっているとの指摘があるとのことです。
 国際協力が必要な課題も多々あり、広い範囲において、政府として積極的な被害防止・救済策が必要不可欠な状況となっています。
 これだけ被害者を出している悪質な団体が活動の一時停止もなく、今日も国から税制の優遇を受けているということはあってはならないことだと思います。これだけ被害者を生み出した、被害を見過ごしてきた政府の政府としての責任を果たし、早急の対応をお願いいたします。
 そして、この法案の成立にあたっては、被害者が何度も被害を訴え、そのたびに現役信者や一般の方から攻撃され、自分の経験を話すだけでも深く傷つき、皆が体調を崩しながらも訴え続けてきました。
 それは政府が本当に動いてくれるのか信じられない、被害拡大の張本人の与党側にそのような動きが見られないから、被害者がそこまでやるしかなかったという事実を忘れないでいただきたいです。
 今後は積極的な政府の被害救済に期待いたします。私は毎日、現役信者や一部の方々からうそつき偽善者と言われて、その言葉を意見の一つとして受け止めようとしましたが、自分の器では到底受け止めきれず、死んだ方がマシなぐらい体調を崩したときもありました。
 本日、国会で正式な参考人として発言をさせていただけることを感謝いたします。改めて、今回3カ月という短い期間の中で、この救済法案を作りあげてくださった政府、与野党、官僚の皆様、そして岸田総理に心から感謝し、私からの説明は以上になります。ありがとうございました。(小泉浩樹)》



2022年12月 9日
「世界的な軍拡の動きへの対応は必須ですが、だから日本も軍拡をという姿勢だけでは疑問です。各国が共存する国際社会において、中ロの一方的な現状変更は批判すべきですが、権力のみならず権限を持つ大国間の協調が秩序の維持には必要です」
「今のNSSにある『平和国家』や『専守防衛』という言葉は改定後も残りそうです。非常に問題なのは、日本の姿勢を世界に示すNSSで、そうした憲法に関わる言葉がお題目になり、内実の変更をどう取り繕うかだけが政権の腕の見せどころという感じになっている。しかもそれが誰の目にも明らかで、果たして戦略と言えるのかということです」
「日本への攻撃に対する個別的自衛権と違って、『専守防衛』のイメージが集団的自衛権ではあいまいでわかりにくい。15年成立の安全保障法制で他国への攻撃が日本の存立を脅かす『存立危機事態』に限り自衛権を行使できるとしましたが、どのような事態がそれにあたるのか」
「特に世界最大の軍事力を持ち、憲法9条のような制約のない同盟国・米国との関係が問われます。米国は02年のNSSで『ならず者国家』への予防攻撃論を展開し、03年のイラク戦争は実質的にその実施だったと言えます。その時を含め戦後、米国の武力行使に反対したことのない日本が、集団的自衛権を行使できるようになっても掲げる『専守防衛』とは一体何なのでしょうか」
「国民主権の日本でも有事の自衛隊出動に国会承認が必要ですが、米国の戦争に集団的自衛権の行使で参加するかどうかをどこまで主体的に判断できるか。日米間には日本防衛以外のために米軍が日本から出動する場合の事前協議制度がありますが、米国防総省の公式の歴史を記した書物には、日本に拒否権を与えるものではないと明記されています」
「平和主義や国民主権と並ぶ憲法の三原則である、基本的人権の尊重にも留意すべきです。島国の日本が攻撃されれば、自衛隊や米軍の基地周辺などで多くの民間人の犠牲は避けようがない。政府は有事シナリオや必要な兵器の配備を具体的に示さず、『国民を守り抜く決意』だけ語って防衛力強化を進めていいのでしょうか」
「軍拡競争がこうじれば戦争になった時に国民の犠牲が大きくなる。そうした反省を経て今の憲法があるはずなのに、防衛力強化を隠蔽(いんぺい)するお題目に使われている。政治学者の丸山真男はかつて旧憲法下の軍国主義について『無責任の体系』を指摘しましたが、現憲法下でも『無責任の体系』が生まれています」
「憲法を守ることで国家や国民を守る姿勢が、米国と価値観を共有するとされる日本のNSSにも反映されるよう望みます」
 『平和国家』と『専守防衛』は唱えつつ、米国に追随して「集団的自衛権」の名の下に東アジアにおける戦争に突入できる体制を構築しようとする、岸田政権の政策と憲法との整合性に対する、国際政治研究石田淳・東京大学教授の批判。
 カルトと癒着した安倍内閣による、いずれも本質は憲法違反である集団的自衛権行使容認の2014年閣議決定、2015年9月の安全保障関連法につづき、ウクライナ戦争や中国、北朝鮮を理由として岸田政権は防衛予算GDP2%とともに「防衛力の抜本的強化」を軸に国家安全保障戦略(NSS)改定をめざす。
 「平和主義」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を定めた日本国憲法のもとで戦闘組織である「自衛隊」を保持し、世界最大の軍事力を持つ米国と「日米安保条約」を結ぶ根源的な矛盾が、いまさらに拡大しようとしている。
 安全保障関連法がさだめる「集団的自衛権」とは、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」(内閣官房)であり、まさに「戦力の不保持」「交戦権の否認」に抵触する明確な憲法違反の法制でしかない。
 その延長線上に、防衛費をGDP2%とし「反撃能力」としてミサイルを多数沖縄・南西諸島などに住民の意思と安全・生命を無視して基地を建設し、台湾有事あるいは朝鮮有事に際して「存立危機事態」と称して米国などの戦争行為に加わり相手を攻撃することは、日本国憲法を蹂躙しこの国と世界を泥沼の戦争に引き摺り込む極めて愚かな行為に他ならない。
 日本の軍拡は、周辺国と世界の軍拡を加速する。第二次大戦で国内外に多くの犠牲者を出し、広島・長崎の唯一の戦争被爆国として平和憲法を保持するこの国の世界的な軍拡のながれへの対応は、みずから率先して軍備増強をせず、世界各国に軍備管理・軍縮と外交による問題解決を呼びかけること以外にない。
《米中対立やウクライナ戦争などで国際秩序が揺らぐ中、岸田文雄首相は「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」として、「防衛力の抜本的強化」を軸に国家安全保障戦略(NSS)を改定しようとしている。
 「国益を長期的視点から見定め、国際社会で進むべき針路」とされるNSSと、国民主権・平和主義・基本的人権の尊重を掲げる憲法との関係はどう考えるべきなのか。石田淳・東京大学教授(国際政治)に聞いた。
岸田政権は年内に外交・防衛政策の基本方針「国家安全保障戦略」など三つの文書を改定します。今回の改定は日本の安全保障の大転換になるかもしれません。改定に関わる関係者、有識者に様々な視点から聞きました。
――いまの国際情勢をどう見ますか。
 「歴史的に言えば、第2次大戦後の冷戦で朝鮮戦争が持った意味と同様に、ウクライナ戦争が分水嶺(ぶんすいれい)となるでしょう。戦争が起きた地域以外でも軍拡が起きる。中国が参戦した朝鮮戦争は、ソ連を盟主とする東側陣営への警戒感を欧州で高め、NATO(北大西洋条約機構)諸国が軍備を強化した。ロシアのウクライナ侵略もアジアで軍拡を招きかねません」
 「ミサイル防衛(MD)システムと軍拡の問題もあります。互いにMDという盾を持たず、矛の使用、すなわち攻撃を互いに控えたのが米ソの相互抑止でしたが、今世紀に入り、米国が抑止の利かない『ならず者国家』の攻撃を防ごうとMDを持ち、日本も同調しました。そのMDによって軍事力を無力化されまいと、中国やロシア、北朝鮮がミサイル開発を進めています」
――そんな中で、9年前に初めてできた日本のNSSが年末に改定されようとしています。
 「世界的な軍拡の動きへの対応は必須ですが、だから日本も軍拡をという姿勢だけでは疑問です。各国が共存する国際社会において、中ロの一方的な現状変更は批判すべきですが、権力のみならず権限を持つ大国間の協調が秩序の維持には必要です。中ロと日米が軍拡競争を続ければ、国連安全保障理事会や、北朝鮮の核問題をめぐる6者協議のような枠組みは機能しません」
 ――ただ、岸田内閣はNSS改定に向け防衛力強化を強調し、MDでは限界があるとして敵基地攻撃能力の保有を検討しています。
 「政府は戦後の抑制的な防衛政策の指針として『専守防衛』を掲げ、『憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略』で防衛力の保持も行使も必要最小限と説明してきました。しかし、密接な関係国への攻撃に対処する集団的自衛権の行使を認めた2014年の閣議決定や今回の防衛力強化でターニングポイントを迎えています」
 「ところが、今のNSSにある『平和国家』や『専守防衛』という言葉は改定後も残りそうです。非常に問題なのは、日本の姿勢を世界に示すNSSで、そうした憲法に関わる言葉がお題目になり、内実の変更をどう取り繕うかだけが政権の腕の見せどころという感じになっている。しかもそれが誰の目にも明らかで、果たして戦略と言えるのかということです」
――憲法がお題目になっている問題点とは、具体的には。
 「日本への攻撃に対する個別的自衛権と違って、『専守防衛』のイメージが集団的自衛権ではあいまいでわかりにくい。15年成立の安全保障法制で他国への攻撃が日本の存立を脅かす『存立危機事態』に限り自衛権を行使できるとしましたが、どのような事態がそれにあたるのか。政府の国会答弁は、ケース・バイ・ケースで『総合的に考慮し判断する』にとどまっています」
 「特に世界最大の軍事力を持ち、憲法9条のような制約のない同盟国・米国との関係が問われます。米国は02年のNSSで『ならず者国家』への予防攻撃論を展開し、03年のイラク戦争は実質的にその実施だったと言えます。その時を含め戦後、米国の武力行使に反対したことのない日本が、集団的自衛権を行使できるようになっても掲げる『専守防衛』とは一体何なのでしょうか」
――議会や国民との関係でも問題がありそうです。
 「米国では民主主義は徹底され、お題目ではありません。憲法で宣戦布告の権限は議会にあると定めています。国民主権の日本でも有事の自衛隊出動に国会承認が必要ですが、米国の戦争に集団的自衛権の行使で参加するかどうかをどこまで主体的に判断できるか。日米間には日本防衛以外のために米軍が日本から出動する場合の事前協議制度がありますが、米国防総省の公式の歴史を記した書物には、日本に拒否権を与えるものではないと明記されています」
 「平和主義や国民主権と並ぶ憲法の三原則である、基本的人権の尊重にも留意すべきです。島国の日本が攻撃されれば、自衛隊や米軍の基地周辺などで多くの民間人の犠牲は避けようがない。政府は有事シナリオや必要な兵器の配備を具体的に示さず、『国民を守り抜く決意』だけ語って防衛力強化を進めていいのでしょうか」
――NSSを作るなら、同じく国の指針である憲法の理念を体現する姿勢が欠かせないということでしょうか。
 「そうですね。軍拡競争がこうじれば戦争になった時に国民の犠牲が大きくなる。そうした反省を経て今の憲法があるはずなのに、防衛力強化を隠蔽(いんぺい)するお題目に使われている。政治学者の丸山真男はかつて旧憲法下の軍国主義について『無責任の体系』を指摘しましたが、現憲法下でも『無責任の体系』が生まれています」
 「米国が今年示したNSSでは、『民主主義を前へ進め権威主義に対抗する』としながら、『近年、我々の民主主義は内側から挑戦を受けている』と国内政治の混乱を自省し、不断の改善を強調しています。憲法を守ることで国家や国民を守る姿勢が、米国と価値観を共有するとされる日本のNSSにも反映されるよう望みます」(聞き手 編集委員・藤田直央)》



2022年12月 8日
「都ではこの歴史認識(関東大震災における朝鮮人虐殺)について言及していない」「都知事がこうした⽴場をとっているにも関わらず、朝鮮⼈虐殺を『事実』と発⾔する動画を使⽤する事に懸念があります」都人権部職員メール
(2017年以降朝鮮人犠牲者を悼む式典への追悼文送付をやめた理由として)「さまざまな見方がある」「すべての方々に哀悼の意を表することで対応してきた」小池都知事
「これは揺るぎない歴史の事実です。虐殺を見聞きした人の証言や日記、絵などが多く残っており、迫害した側の日本人の記録もあります。悲惨な出来事を後世に伝えなければという思いからで、虐殺の否定は、先人への冒涜(ぼうとく)です」
「都が70年代に刊行した『東京百年史』では、朝鮮人暴動の流言が広がると青年団、在郷軍人などでつくる組織が自警団と称し朝鮮人を迫害したと書かれています。顔つきが朝鮮人らしいとか、言葉が不明瞭だというだけで『半死半生の目』にあわせ、警察に突き出したり惨殺したりしたとの記述もあります」
「政府の中央防災会議の報告書は、被害者は朝鮮人が最も多いとしつつ、『中国人、内地人も少なからず被害にあった』とし、犠牲者は震災による死者(約10万5千人)の1〜数%に及ぶとあります」
「小池知事は虐殺を否定する発言はしていません。しかしあいまいな態度は、都職員の間で『虐殺』に触れてはいけない、という意識をもたらしたのではないか。影響力のある政治家でもあり、一般の人にも、虐殺があったというのは、おかしいと思わせるのではないですか」
「(上映中止に関わったのは人権行政を担う部署であることを)深刻に受け止めています。人権という名のつく行政組織であるにもかかわらず、弱い立場の人々の命を奪った虐殺を問題視しない。それは自分たちが、人権を侵害された人の味方ではない、と述べているのと同じです。歴史事実の否定自体が人権侵害につながります」
「在日コリアンは、迫害が再び加えられるのかと不安になると言います。誤った歴史認識は、人を扇動し命を奪うこともある。学校教育や社会教育でマイノリティーの歴史、近代日本と朝鮮の関係をきちんと教えることが大切です。虐殺事件の有無について、よく知らない職員がいたこと自体が大問題で、人権行政を担う資格があるのかと疑われても仕方ないくらいのことです。関係者は深刻に受け止めてほしい。私はいつでも小池知事や都の職員に、この歴史を語る用意があります。まずは、都が作品の上映中止について納得いく説明をすべきです」外村大東京大学大学院教授(日本近現代史研究)
「『南京事件は捏造(ねつぞう)だ』や『慰安婦はみな娼婦(しょうふ)だったのだから問題ない』といった言説が歴史修正主義の典型でしょう。特徴は、アジアでの戦争と植民地支配の問題が大きいことです。日本が侵略や植民地支配をしたと歴史教科書に書いてあり、反省や補償が必要だという合意も一定程度できていましたので、そうした共通認識を揺さぶる意図があったのでしょう」
 「(小池百合子東京都知事の「様々な見方がある」と、史実を直接に否定してはいないようにも見える言い方は)歴史修正主義の言説によく見られるレトリックです。多様な意見を受け入れ、一つの見解だけが正しいという押しつけに抵抗しているようにも見えますが、実際には、知事の言う『様々な見方』の中には無視できない質の違いが存在します」
「たとえばネットには『朝鮮人虐殺はなかった』と語る言説もあります。しかし、自らに都合のよい根拠だけを集めて主張されるそうした見解と、多くの歴史家が関与し多くの史料を様々な角度から吟味したうえで到達したある程度の共通見解は、決して等価ではありません。本来一緒にすべきでない言説を同じ土俵の上にあげる行為は、歴史修正主義と言われても仕方ありません。人々の中に『歴史的事実だと思われてきたものが実は事実ではないのかもしれない』という認識の揺らぎを引き起こすことが、歴史修正主義の目的だからです」
「歴史家たちは、これまで歴史修正主義に対して声をあげてこなかったわけではありませんが、十分に届いてはこなかったのだと思います。辛抱強く普通の言葉で語る研究者が、もっと増えないといけないのでしょう」武井彩佳学習院女子大学教授(ドイツ現代史・ホロコースト研究)
 東京都が今年の人権プラザ企画展で美術家飯山由貴さんの作品「あなたの本当の家を探しにいく」中の、日本近現代史を専門とする外村大東京大学教授が「日本人が朝鮮人を殺したのは事実」と説明して関東大震災時の朝鮮人虐殺に触れた映像作品「In‐Mates」の上映を認めなかったことについての優れたインタビュー記事。
 「過去に目を閉ざすものは、現在に対しても盲目となる」(ワイツゼッカー)
 ワイツゼッカーの警句をまさに地で行っているのが東京都のこの20年間。今回の都人権部による検閲は、石原慎太郎以来歴史修正と少数者迫害・人権侵害を平然と行う東京都の行政の問題が端的に示された出来事。狡猾で実態は歴史修正主義者である小池都知事の元で、「人権」を担当する部署の職員らが関東大震災における在日朝鮮人虐殺を無かったことにするという退嬰ぶり。
 10月28日川上秀一・人権担当理事は「(メールの)表現が稚拙で工夫すべき所があった。都知事のことを出したのは必要のない表現だった」と述べたが、問題を「稚拙」「不必要」で終わらせること自体、都には歴史修正と行政による人権侵害に向き合う姿勢が決定的に欠落している。学校における国旗・国歌強制も含め、人権や教育に関わる資格は皆無だ。少なくともこの問題について、製作者の美術家飯山由貴さんらと、作品中の正当な発言を問題にされた外村教授と真摯に対面し謝罪すべき。
《東京都の人権啓発活動の拠点となる施設で、関東大震災直後の朝鮮人虐殺に触れた映像作品の上映が中止された。歴史の事実を根拠なく否定しようとする歴史修正主義の言説が、行政にも影響を及ぼしているのか。そして日本や世界は、虐殺の史実にどう向き合ってきたのか。
 ■朝鮮人の虐殺、否定は人権侵害 外村大さん(日本近現代史研究者)
 ――関東大震災(1923年)では住民による自警団や警察、軍隊が、朝鮮人らを虐殺しました。
 「これは揺るぎない歴史の事実です。虐殺を見聞きした人の証言や日記、絵などが多く残っており、迫害した側の日本人の記録もあります。悲惨な出来事を後世に伝えなければという思いからで、虐殺の否定は、先人への冒涜(ぼうとく)です」
 ――東京都や政府の文書に虐殺の事実は明記されています。
 「都が70年代に刊行した『東京百年史』では、朝鮮人暴動の流言が広がると青年団、在郷軍人などでつくる組織が自警団と称し朝鮮人を迫害したと書かれています。顔つきが朝鮮人らしいとか、言葉が不明瞭だというだけで『半死半生の目』にあわせ、警察に突き出したり惨殺したりしたとの記述もあります」
 「政府の中央防災会議の報告書は、被害者は朝鮮人が最も多いとしつつ、『中国人、内地人も少なからず被害にあった』とし、犠牲者は震災による死者(約10万5千人)の1〜数%に及ぶとあります」
 ――虐殺はなぜ起きたのでしょうか。
 「朝鮮人が井戸に毒を入れたなどとするうわさが広まりました。日本人は植民地化に抵抗する朝鮮人を『暴徒』とみなしており、朝鮮では1919年に大規模な独立運動が起き、鎮圧されています。朝鮮人に対する漠然とした恐れや不安を抱いていたことが背景にあります」
 ――朝鮮人虐殺は確固たる事実なのに、なかったと主張する本も出版されています。
 「新史料が見つかったわけでもなく根拠がありません。民族的な対立の枠組みでのみ見て、在日コリアンが日本人を攻撃しているととらえ、虐殺はなかったと信じたいのではないでしょうか。植民地時代から続く、日本人は韓国・朝鮮人より上に立つ存在だという意識が影響しているように思います」
     ◇
 ――上映が中止された作品にご自身も出演されています。
 「日本人の庶民が無実の朝鮮人を殺してしまったのは間違いないと語りました。東京都人権部は、それを問題にして中止を求めたと私はみています」
 ――東京都の小池百合子知事は2017年以降、朝鮮人犠牲者を悼む式典への追悼文送付をやめました。知事は「すべての方々に哀悼の意を表することで対応してきた」とし虐殺の犠牲者を特別視しない姿勢です。
 「小池知事は虐殺を否定する発言はしていません。しかしあいまいな態度は、都職員の間で『虐殺』に触れてはいけない、という意識をもたらしたのではないか。影響力のある政治家でもあり、一般の人にも、虐殺があったというのは、おかしいと思わせるのではないですか」
     ◇
 ――上映中止に関わったのは人権行政を担う部署でした。
 「深刻に受け止めています。人権という名のつく行政組織であるにもかかわらず、弱い立場の人々の命を奪った虐殺を問題視しない。それは自分たちが、人権を侵害された人の味方ではない、と述べているのと同じです。歴史事実の否定自体が人権侵害につながります」
 「ヘイトスピーチの被害を受けても、差別に反対する施策があり守ってくれる、として行政を信頼していた人は絶望します。相談もできません。職員の方々は、自分たちの仕事とは何か、原点に返り考えて欲しい」
 ――都には外国人住民も多くいます。そうした人の人権を守るのも仕事であるはずです。
 「近年、行政が語る人権施策は、ダイバーシティーとか多文化共生とか言葉が躍るだけで、歴史を考える視点が欠けています。大震災後の復興工事も、朝鮮人労働者なくしては成し遂げられませんでした」
 ――今でも地震や水害が起きると外国人の犯罪のうわさが、SNSで広がります。
 「在日コリアンは、迫害が再び加えられるのかと不安になると言います。誤った歴史認識は、人を扇動し命を奪うこともある。学校教育や社会教育でマイノリティーの歴史、近代日本と朝鮮の関係をきちんと教えることが大切です。虐殺事件の有無について、よく知らない職員がいたこと自体が大問題で、人権行政を担う資格があるのかと疑われても仕方ないくらいのことです。関係者は深刻に受け止めてほしい。私はいつでも小池知事や都の職員に、この歴史を語る用意があります。まずは、都が作品の上映中止について納得いく説明をすべきです」
 (聞き手・桜井泉)
     *
 とのむらまさる 1966年生まれ。東京大学大学院教授。在日朝鮮人の歴史や植民地時代の朝鮮社会に詳しい。著書に「朝鮮人強制連行」。
 ■共通認識揺らす歴史修正主義 武井彩佳さん(歴史研究者)
 ――そもそも、歴史修正主義とは何なのでしょう。
 「歴史的事実を意図的に否定したり、矮小(わいしょう)化したり、一側面のみを誇張したりすることを通して、過去の歴史の評価を変えていこうとすること。それが歴史修正主義です。主に政治的な意図によって駆動されます」
 ――いつごろから注目されているものなのですか。
 「歴史修正主義の起源は19世紀末の欧州とされます。欧米で強く関心を集めたのは1980年代。ホロコーストを否定する言説が広がったことでした。ホロコーストとは、第2次世界大戦中にナチス・ドイツの主導で組織的に行われたユダヤ人殺害です」
 「典型なのは『ホロコーストの死者数が600万人というのは誇張だ』とか『アウシュビッツ収容所にガス室はなかった』といった言説でした」
 ――近年の状況は?
 「実は西欧では、歴史修正主義の問題は過去のものになりつつあります。対処法のパターンが確立されてきたからです。とりわけホロコースト否定のような言説に対しては、ヘイトスピーチとみなして法規制する国が多い。悪質な言説を社会にたれ流させない仕組みを整備してきたことで、問題のある言説が表出しにくくなったのです」
 「第2次大戦後の欧州にとっては人種差別撤廃が根幹的な課題でした。ホロコーストを再発させないためです。だからこそホロコーストの歴史をゆがめようとする言説には厳しく対処してきた。そこには、特定の人種や民族への憎悪があおられたら暴力が誘発され、公益が損なわれるとの考えがありました」
     ◇
 ――日本ではどうでしょう。
 「『南京事件は捏造(ねつぞう)だ』や『慰安婦はみな娼婦(しょうふ)だったのだから問題ない』といった言説が歴史修正主義の典型でしょう。特徴は、アジアでの戦争と植民地支配の問題が大きいことです。日本が侵略や植民地支配をしたと歴史教科書に書いてあり、反省や補償が必要だという合意も一定程度できていましたので、そうした共通認識を揺さぶる意図があったのでしょう」
 ――関東大震災の際の在日朝鮮人虐殺について、小池百合子・東京都知事は「様々な見方がある」と語っています。史実を直接に否定してはいないようにも見える言い方です。
 「歴史修正主義の言説によく見られるレトリックです。多様な意見を受け入れ、一つの見解だけが正しいという押しつけに抵抗しているようにも見えますが、実際には、知事の言う『様々な見方』の中には無視できない質の違いが存在します」
 「たとえばネットには『朝鮮人虐殺はなかった』と語る言説もあります。しかし、自らに都合のよい根拠だけを集めて主張されるそうした見解と、多くの歴史家が関与し多くの史料を様々な角度から吟味したうえで到達したある程度の共通見解は、決して等価ではありません」
 「本来一緒にすべきでない言説を同じ土俵の上にあげる行為は、歴史修正主義と言われても仕方ありません。人々の中に『歴史的事実だと思われてきたものが実は事実ではないのかもしれない』という認識の揺らぎを引き起こすことが、歴史修正主義の目的だからです」
 ――虐殺された朝鮮人への追悼式に追悼文を送ることをやめた理由に関して小池知事は、震災のすべての犠牲者に哀悼の意を表すと説明しています。
 「人種や民族を理由に理不尽に殺害された人々と自然災害によって命を落とした人々を、同じカテゴリーの中に入れてよいのでしょうか。違いをきちんと見ることも大事なはずです」
     ◇
 ――歴史修正主義への対策として必要なのは、西欧と同様に歴史の否定や歪曲に厳しい法規制をかけることでしょうか。
 「日本では難しいと思います。現実問題として日本では、特定の民族集団への直接のヘイトスピーチにさえ、刑事罰を与える法規制を国としてまだ作れていません。その中で特定の歴史言説に刑事罰を与える法律を作るような跳躍をすることは、非現実的ですし、負の効果が大きすぎます。加えて、法で歴史像を縛ることは本来、望ましくもないことだとも思います」
 「歴史家たちは、これまで歴史修正主義に対して声をあげてこなかったわけではありませんが、十分に届いてはこなかったのだと思います。辛抱強く普通の言葉で語る研究者が、もっと増えないといけないのでしょう」
 (聞き手 編集委員・塩倉裕)
     *
 たけいあやか 1971年生まれ。学習院女子大学教授(ドイツ現代史・ホロコースト研究)。著書に「歴史修正主義」など。
 ◆キーワード
 <人権企画展での作品上映中止をめぐる問題> 東京都の外郭団体の企画展で、関東大震災の朝鮮人虐殺を作中で扱った美術家飯山由貴さんの作品が上映中止となった。都は企画展の趣旨「障害者と人権」からそれているとするが、都人権部職員は、作品中で「日本人が朝鮮人を虐殺したのは事実」とする趣旨の発言に関し「都ではこの歴史認識について言及していない」とのメールを外郭団体に送っていた。都はメールの表現は「稚拙だった」と釈明した。》



2022年12月 7日
・10月からはじまった臨時国会の参議院内閣委員会で「男女平等は、絶対に実現し得ない反道徳の妄想」という発言が問われると、杉田は「総務大臣政務官なのでコメント差し控える」と答弁を拒否。参議院の政治倫理・選挙制度に関する特別委員会で「LGBTは生産性がない」寄稿について謝罪と撤回を求められると、「不快に思われた方がいたなら、重く受け止めている」と言うだけで、謝罪と撤回を拒否。
・11月30日の参議院予算委員会では、ほとんどの発言について頑なに謝罪・撤回を拒否。むしろ「女性として落ち度があった」と発言した件については、検察が不起訴としていたことから「当時は性暴力というのはなく、性暴力被害者というのも存在しない」などと発言。「女性差別は存在しない」という発言の意図は、「命に関わるひどい女性差別は存在しない」という意味だったなどと問題発言を重ねた。
・「男女平等は絶対に実現しない、反道徳の妄想」についても、「当時は別の政党に所属していたから」などと言い訳をし、「LGBTは生産性がない」「LGBT支援なんかいらない」「弱者ビジネスに骨の髄までしゃぶられる」などについても、「当時から差別する意図はない」と、全く回答になっていない答弁ではぐらかした。「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。日本国の恥さらし」についても明らかにヘイトスピーチと言えるものだが、「当時、一般人だった私がこのような感想を持つのは仕方がない」などと答弁。
・杉田は日本軍「慰安婦」の問題についても、過去に著書で「慰安婦像」を「建つたびに、一つひとつ爆破すればいい」などと述べ、「慰安婦」について扱った共同研究について「日本の国益を損なう反日研究」などとSNSに投稿している点も追及されるべき。
・国会では杉田水脈の登用について、岸田首相の任命責任が問われたが、首相は「任命責任については、この人事は適材適所ということであります」と答弁。マイノリティの人権を侵害し、差別や問題発言を繰り返すような人物が「適材適所」と捉えられていること自体が問題だが、岸田首相の論理においても、杉田は総務大臣政務官として不適格であると言える。
・岸田政権が「多様性の尊重」を掲げ、その方針に従う必要があるのであれば、杉田の過去の発言内容は明らかに「問題」であり、謝罪・撤回しなければその「差別的な考え」は変わっていないということになる。これは政策に影響する可能性が大いにあり、つまり内閣の方針に従っていない。
・政権の掲げる方針に従わず、説明責任を果たしていないような人物を政府の要職に登用しているのは岸田首相だ。まさに政権の任命責任の問題であり、岸田首相が自ら主張する論理に従えば、杉田はすぐに更迭されなければならないだろう。
・杉田の過去の発言が何度も取り沙汰されると、「野党はいつまで杉田を吊るし上げるのか」といった批判が起きる。筆者も“同感”だ。こんな人事がまかり通って良いわけがなく、国会で「政策」の審議をするためにこそ、岸田首相は即座に杉田を更迭すべきだろう。
・「杉田をやり玉にあげても根本的な問題は解決しない」という意見もある。これに対しては、むしろ「杉田すら罷免しない/できないような政権が、ジェンダー平等や性的マイノリティの権利を保障するとは到底考えられない」と言える。
・政治家が何度も差別や問題発言を繰り返し、何のおとがめもなくむしろ出世できてしまうという今の状況は、「これくらい言っても良いのだ」と、社会全体の差別発言に対する「許容範囲」を広げてしまう。
・差別を受けるマイノリティの立場にとって、一つひとつの言葉は命や生存、尊厳に関わってくる問題だ。これらを放置することは、社会の差別を温存し、むしろ助長する効果をもたらしてしまう。
・杉田の総務大臣政務官という立場は、「行政施策の評価」や「統計」などを担当している。また、国会でも言及されていたが、SNSにおける誹謗中傷対策のキャンペーン「#NoHeartNoSNS」を管轄しているのは総務省だ。性暴力被害者を侮辱する投稿に何度も「いいね」を押すような人物が、こうしたキャンペーンを管轄する立場にいることは明らかに問題で、誹謗中傷の防止ではなく、むしろ助長することに繋がりかねない。
・政府の要職に就くような人物が、「女性はいくらでも嘘をつける」「女性として落ち度があった」など、過去に何度も性暴力被害者に対するセカンドレイプとも言えるような発言を繰り返すことは、総務省だけでなく、行政の性暴力被害の問題に対する姿勢そのものの信頼を低下させるだろう。
・岸田政権が掲げる「多様性の尊重」は、差別や問題発言を重ねる杉田が政府の要職に居続ける限り、「信用」することはできない。都合の良い言葉だけであり、実際には尊重するつもりがないと思わざるを得ない。
・これらの人々(旧統一教会との関係が指摘された山際大志郎・前経済再生担当大臣、「法務大臣は死刑のはんこを押す地味な役職だ」と発言した葉梨康弘・前法務大臣、杉田と同じ総務省の寺田稔・前総務大臣は「政治とカネ」をめぐり)が辞任する一方で、杉田が更迭されないのは、政権が「人権」や「差別」の問題を軽視していることにほかならない。
・上からの指示で「LGBTは生産性がない」などの発言を謝罪・撤回した杉田だが、「表現を取り消し」ても、マイノリティの人権を侵害した事実は無くならない。また、前述のように差別や問題発言は他にも数多くあり、「LGBT」発言のみを撤回すれば良いわけではない。     (敬称略)
 民族排外と少数者差別意識の醜悪なゴミ箱のようなこの杉田という輩と、それを総務政務官に任用し続ける岸田首相への松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事の理に適った批判。これが政権の恥であり本人が言う「日本国の恥さらし」」だということを全く理解しない国会議員とこの国の首相。まとめて退陣させるべし。
《杉田水脈・総務大臣政務官が2日、過去に「LGBTは生産性がない」と月刊誌に寄稿した件や、「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさん」などとブログに投稿したことについて謝罪・撤回した。報道によると、松本剛明総務大臣が杉田氏に対し、発言を撤回・謝罪するよう指示したという。
杉田氏はこれ以外にも、さまざまな差別や問題発言を繰り返してきた。今国会で、何度も発言について問われてきたが、頑なに謝罪や撤回をせず答弁を拒んできた。
ようやく上から指示されて撤回に至るという点からも、考え方が変わったとは到底考えられない。また、前述の発言を撤回するのであれば、他にも謝罪すべき差別・問題発言は数多くある。
本来は議員を辞職するレベルの差別や問題発言を繰り返してきた人物であり、そもそも政府の要職に就いてしまっていること自体が問題だ。これは岸田政権の任命責任の問題でもある。
謝罪・撤回を頑なに拒否
今年8月、第2次岸田改造内閣の人事が発表され、総務大臣政務官に杉田水脈氏が就任することが明らかになった。
旧統一教会との関係が問われた改造内閣だったが、むしろジェンダー平等や性的マイノリティの権利保障に反対する旧統一教会の思想と強く合致するような人物が政府の要職に就いてしまう状況に疑問を抱く。
差別発言を咎められることなく、むしろ出世できてしまうことに絶望的な気持ちになった−−。こうした人事に対して批判の声が多数あがっていた。
10月からはじまった臨時国会では、杉田氏が初答弁した衆議院の「政治倫理」に関する委員会をはじめ、さまざまな場所で、同氏の過去の発言の問題が追及されていた。
参議院内閣委員会で「男女平等は、絶対に実現し得ない反道徳の妄想」という発言が問われると、杉田氏は「総務大臣政務官なのでコメント差し控える」と答弁を拒否。参議院の政治倫理・選挙制度に関する特別委員会で「LGBTは生産性がない」寄稿について謝罪と撤回を求められると、「不快に思われた方がいたなら、重く受け止めている」と言い、謝罪と撤回を拒否した。
むしろ問題発言を重ねる
そして11月30日の参議院予算委員会では、性暴力被害者に対する「女としての落ち度があった」との発言や、この件に関するTwitterの侮辱投稿へ何度も「いいね」を押した問題。性被害者について「女性はいくらでも嘘をつける」と発言した件、さらに「女性差別というものは存在しない」「男女平等は絶対に実現しない、反道徳の妄想」「LGBT支援なんかいらない」「弱者ビジネスに骨の髄までしゃぶられてしまう」「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。日本国の恥さらし」など、数々の発言についての問題が追及された。
しかし、杉田氏はほとんどの発言について頑なに謝罪・撤回を拒否。むしろ「女性として落ち度があった」と発言した件については、検察が不起訴としていたことから「当時は性暴力というのはなく、性暴力被害者というのも存在しない」などと発言。「女性差別は存在しない」という発言の意図は、「命に関わるひどい女性差別は存在しない」という意味だったなどと問題発言を重ねた。
「男女平等は絶対に実現しない、反道徳の妄想」についても、「当時は別の政党に所属していたから」などと言い訳をし、「LGBTは生産性がない」「LGBT支援なんかいらない」「弱者ビジネスに骨の髄までしゃぶられる」などについても、「当時から差別する意図はない」と、全く回答になっていない答弁ではぐらかした。
「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。日本国の恥さらし」についても明らかにヘイトスピーチと言えるものだが、「当時、一般人だった私がこのような感想を持つのは仕方がない」などと答弁した。
国会での質疑やメディアではあまり触れられないが、杉田氏は日本軍「慰安婦」の問題についても、過去に著書で「慰安婦像」を「建つたびに、一つひとつ爆破すればいい」などと述べ、「慰安婦」について扱った共同研究について「日本の国益を損なう反日研究」などとSNSに投稿している点も追及されるべきだろう。
擁護する岸田首相の矛盾
いずれにせよ、これまであげた発言だけでも十分議員を辞職すべきレベルのものだが、むしろ政府の要職に就いてしまっている現状は、明らかに“特異”な状況だ。
国会では杉田水脈氏の登用について、岸田首相の任命責任が問われたが、首相は「任命責任については、この人事は適材適所ということであります」と答弁。さらに、岸田内閣が「多様性」を尊重するという方針を掲げており、「内閣の一員である以上、この方針に従ってもらわなければならない」とする一方で、「以前の言動については、政治家として本人が説明責任を果たすべき」と答弁した。
マイノリティの人権を侵害し、差別や問題発言を繰り返すような人物が「適材適所」と捉えられていること自体が問題だが、岸田首相の論理においても、杉田氏は総務大臣政務官として不適格であると言える。
岸田政権が「多様性の尊重」を掲げ、その方針に従う必要があるのであれば、杉田氏の過去の発言内容は明らかに「問題」であり、謝罪・撤回しなければその「差別的な考え」は変わっていないということになる。これは政策に影響する可能性が大いにあり、つまり内閣の方針に従っていない。
さらに、過去の発言は本人が説明責任を果たすべきだ、というが、杉田氏は頑なに謝罪撤回をせず、はぐらかすような答弁を続けている。全く説明責任を果たしていないため、岸田首相の論理にあてはまらない。
政権の掲げる方針に従わず、説明責任を果たしていないような人物を政府の要職に登用しているのは岸田首相だ。まさに政権の任命責任の問題であり、岸田首相が自ら主張する論理に従えば、杉田氏はすぐに更迭されなければならないだろう。
たかが「言葉」じゃない
杉田氏の過去の発言が何度も取り沙汰されると、「野党はいつまで杉田氏を吊るし上げるのか」といった批判が起きる。筆者も“同感”だ。こんな人事がまかり通って良いわけがなく、国会で「政策」の審議をするためにこそ、岸田首相は即座に杉田氏を更迭すべきだろう。
「杉田氏をやり玉にあげても根本的な問題は解決しない」という意見もある。これに対しては、むしろ「杉田氏すら罷免しない/できないような政権が、ジェンダー平等や性的マイノリティの権利を保障するとは到底考えられない」と言える。
「たかが過去の発言を、そこまで追及すべきなのか」と思う人もいるだろう。しかし、これは単なる言葉の問題ではない。
政治家が何度も差別や問題発言を繰り返し、何のおとがめもなくむしろ出世できてしまうという今の状況は、「これくらい言っても良いのだ」と、社会全体の差別発言に対する「許容範囲」を広げてしまう。
差別を受けるマイノリティの立場にとって、一つひとつの言葉は命や生存、尊厳に関わってくる問題だ。これらを放置することは、社会の差別を温存し、むしろ助長する効果をもたらしてしまう。
これは、すでに「また杉田氏の発言の問題か」という前述のような印象を広げている時点で、差別発言への“慣れ”を生み出してしまっており非常に問題だ。
杉田氏の総務大臣政務官という立場は、「行政施策の評価」や「統計」などを担当している。また、国会でも言及されていたが、SNSにおける誹謗中傷対策のキャンペーン「#NoHeartNoSNS」を管轄しているのは総務省だ。
性暴力被害者を侮辱する投稿に何度も「いいね」を押すような人物が、こうしたキャンペーンを管轄する立場にいることは明らかに問題で、誹謗中傷の防止ではなく、むしろ助長することに繋がりかねない。
「統計」については、「ジェンダー平等」も多数関わってくる。5年に一度実施される「国勢調査」では、同性カップルがパートナーとしてカウントされない問題などがある。
「男女平等は絶対に実現しない、反道徳の妄想」「LGBTは生産性がない」などと発言しているような人物がこれを管轄しているとなると、統計に大きな悪影響を及ぼされる可能性がある。
政府の要職に就くような人物が、「女性はいくらでも嘘をつける」「女性として落ち度があった」など、過去に何度も性暴力被害者に対するセカンドレイプとも言えるような発言を繰り返すことは、総務省だけでなく、行政の性暴力被害の問題に対する姿勢そのものの信頼を低下させるだろう。
岸田政権が掲げる「多様性の尊重」は、差別や問題発言を重ねる杉田氏が政府の要職に居続ける限り、「信用」することはできない。都合の良い言葉だけであり、実際には尊重するつもりがないと思わざるを得ない。
政権の人権・差別の問題「軽視」を象徴
すでに岸田政権では、旧統一教会との関係が指摘された山際大志郎・前経済再生担当大臣が辞任、「法務大臣は死刑のはんこを押す地味な役職だ」と発言した葉梨康弘・前法務大臣が更迭、そして杉田氏と同じ総務省の寺田稔・前総務大臣は「政治とカネ」をめぐる問題で辞任している。
これらの人々が辞任する一方で、杉田氏が更迭されないのは、政権が「人権」や「差別」の問題を軽視していることにほかならない。
上からの指示で「LGBTは生産性がない」などの発言を謝罪・撤回した杉田氏だが、「表現を取り消し」ても、マイノリティの人権を侵害した事実は無くならない。また、前述のように差別や問題発言は他にも数多くあり、「LGBT」発言のみを撤回すれば良いわけではない。
繰り返しになるが、これは本来、議員を辞職すべきような人物を政府の要職に登用している岸田政権の任命責任の問題であり、首相はすぐに杉田氏を更迭すべきだ。》


2022年12月 7日
・岸田文雄首相は5日「防衛力整備計画」の2023年度から27年度の5年間の総額について約43兆円とするように指示。  https://www.tokyo-np.co.jp/article/218115
・政府は迎撃のみに特化した今の防空システムを改め、敵のミサイル発射拠点を攻撃する「反撃能力」を保有する方針を固め、アメリカ製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入やアメリカの推進する「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」を導入する方向で検討に入る。 https://news.tv-asahi.co.jp/news.../articles/000278426.html 
・防衛省は「反撃能力」保有へ極超音速など10種類以上の長射程ミサイル同時開発を検討。 https://www.yomiuri.co.jp/politics/20221130-OYT1T50278/
・21年11月27日岸田首相、ヘルメット姿で陸自戦車に試乗。
「最大の問題は、日本を狙う攻撃の着手を事前に認定できても、たたけば結果として日本が先に相手の本土を攻撃する構図になることだ。国際法上は先制攻撃ではないとの理屈でも、相手に日本本土を攻撃する大義名分を与えてしまう。確実に戦争を拡大させ、際限のないミサイルの撃ち合いに発展する」
「中国や北朝鮮は相当数のミサイル施設があり、一気につぶせなければ日本が報復される。相手を脅して攻撃を思いとどまらせる『抑止力』についても、軍事大国の中国に対し、ちょっとした敵基地攻撃能力を持っても抑止できるとは思えず、反撃を受けた場合の民間人防護の議論もない。論理として完結していない」
「専守防衛とは日本は国土防衛に徹し、相手の本土に被害を与えるような脅威にならないと伝え、日本を攻撃する口実を与えない防衛戦略だ。敵基地攻撃能力を持てば、それが完全に崩れて専守防衛は有名無実化する」
「力には力で対抗する抑止の発想では、最終的に核武装まで行き着いてしまい、その論理は正しい答えではない。日本は国土が狭く、食料やエネルギーなどを全て自給できず、海外とつながらなければ生きていけない。少子化も進み、戦争を得意とする国ではない。武力強化ではなく、戦争を防ぐ新たな国際ルール作りに向け、もっと外交で汗をかかなければいけない」柳沢協二・元内閣官房副長官補
 昨年は嬉しそうにヘルメット姿で自衛隊戦車に搭乗し、今秋遅ればせながら更迭した山際、葉梨、寺田のようなカルト集団と癒着し、公選法違反や重大な失言など政治倫理と法規範に根底から抵触する者を大臣とし、醜悪極まる差別発言を繰り返す杉田を総務政務官に登用して政治を混乱・停滞させる岸田首相は、ロシアのウクライナ侵攻、台湾問題そして北朝鮮の一連の行動を理由にして泥縄式にこの国の「安全保障」政策を根底から覆す再現なき軍備拡大競争にこの国を陥れることへの、柳沢協二・元内閣官房副長官補の真っ当な批判。
 「相手国への攻撃能力を持てば、相手国からの攻撃を防げる」は「核抑止力論」と同じく、世界の歴史やこの国の歴史を振り返っても机上の空論に過ぎない。この政権がすることは、少子高齢化と収斂する日本経済の下で教育や福祉に税金を使わず、予算の当ても現実性も皆無な防衛費GDP2%や5年間で43兆円という数字ありきの極めて危険で有害な遊戯にすぎない。
 さらにこれまでまがりなりにも「平和国家」を謳ってきた日本が「専守防衛」を放棄し憲法を逸脱する軍備拡大に向かうことは、世界各国を外交と軍備管理・軍縮ではなく大規模な軍拡に転換させる重大な影響を与える。この政権を退場させることが、まともな未来への唯一の道。
《戦後の安全保障政策の大転換となる敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を巡る議論が政府・与党で続いている。柳沢協二・元内閣官房副長官補は、保有した敵基地攻撃能力で実際に相手国を攻撃すれば、日本本土を攻撃する大義名分を与え、際限のない撃ち合いに発展する危険性を指摘した。(川田篤志)
 政府は議論を進める理由として、相手国のミサイル攻撃を防ぐ対処力を向上させるためと説明している。柳沢氏は「中国や北朝鮮は相当数のミサイル施設があり、全て一気につぶせなければ、日本が報復される」と反論。仮に日本が敵基地攻撃能力を持っても、軍事大国となった中国を抑止できるか、疑問を呈した。
 さらに、相手国の国土をたたけば、むしろ日本を攻撃する理由を与え、ミサイルの応酬により国民に甚大な被害が出ることを危惧した。
 憲法に基づく日本の安全保障の基本方針「専守防衛」について「国土防衛に徹し、相手の本土に被害を与えるような脅威にならないと伝え、相手に日本を攻撃する口実を与えない防衛戦略だ」と解説。敵基地攻撃能力を持てば「専守防衛は完全に崩れ、有名無実化する」と話した。
 各社の世論調査で保有に理解を示す意見が多いことについては「国民自身に被害が及ぶ恐れがあると、政治家が伝えなければいけない」と強調。「敵基地攻撃能力を持って実際に戦争になれば、日本の国土にも確実にミサイルが撃たれる。国民に都合の悪い事実を伝えていない」と批判した。
▶柳沢氏との一問一答は以下の通り
 ―敵基地攻撃能力を保有することの問題点は。
 「最大の問題は、日本を狙う攻撃の着手を事前に認定できても、たたけば結果として日本が先に相手の本土を攻撃する構図になることだ。国際法上は先制攻撃ではないとの理屈でも、相手に日本本土を攻撃する大義名分を与えてしまう。確実に戦争を拡大させ、際限のないミサイルの撃ち合いに発展する」
 ―政府は迎撃ミサイル防衛には限界があり、反撃能力が必要だと説明する。
 「中国や北朝鮮は相当数のミサイル施設があり、一気につぶせなければ日本が報復される。相手を脅して攻撃を思いとどまらせる『抑止力』についても、軍事大国の中国に対し、ちょっとした敵基地攻撃能力を持っても抑止できるとは思えず、反撃を受けた場合の民間人防護の議論もない。論理として完結していない」
 ―専守防衛を維持しつつ保有することは可能か。
 「専守防衛とは日本は国土防衛に徹し、相手の本土に被害を与えるような脅威にならないと伝え、日本を攻撃する口実を与えない防衛戦略だ。敵基地攻撃能力を持てば、それが完全に崩れて専守防衛は有名無実化する」
 ―日本が取るべき道は。
 「力には力で対抗する抑止の発想では、最終的に核武装まで行き着いてしまい、その論理は正しい答えではない。日本は国土が狭く、食料やエネルギーなどを全て自給できず、海外とつながらなければ生きていけない。少子化も進み、戦争を得意とする国ではない。武力強化ではなく、戦争を防ぐ新たな国際ルール作りに向け、もっと外交で汗をかかなければいけない」
 ―世論調査では保有に理解を示す意見も多い。
 「ロシアによるウクライナ侵攻や台湾を巡る米中の緊張状態、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮など、安保環境は間違いなく厳しさを増している。国民に戦争への不安が広がるのは当たり前とも言えるが、敵基地攻撃という戦争に備える政策を選ぶのなら、国民にも被害が及ぶ恐れがあると政治家が伝えなければいけない。相手への攻撃ばかり注目されているが、日本も確実にミサイルを撃たれる。国民全体が戦争に耐え抜く思いになっているか疑問で、国民に都合の悪い事実を伝えていない」
 ―ウクライナから日本が学ぶことは。
 「ウクライナがなぜロシア本土に反撃しないかというと、攻撃すれば核も含めたより強力な反撃をされる口実を与えかねないからだ。軍事大国を相手にした戦争では、相手と同じことをしてはいけない」
 やなぎさわ・きょうじ 1946年生まれ。東大法学部卒。70年に防衛庁(現防衛省)に入庁し、運用局長や防衛研究所長などを歴任。2004年〜09年に内閣官房副長官補として安全保障政策などを担当。共著に「非戦の安全保障論」(集英社)など。》


2022年12月 4日
日記がわりに。
 もう12月。ロシアの非道なウクライナ侵攻から9ヶ月、ロシアによる市民や民間施設への攻撃を禁止する戦時国際法に違反する執拗な攻撃で、先月解放されたヘルソンなどウクライナ各地で電気、水道、ガスが遮断され市民は厳しい冬を迎えている。フランス2は小児病院の自家発電燃料がやがて枯渇する危機、ヘルソン解放で注目されたウクライナの少年の気持ちなどを伝える。
 始まったサッカーW杯でイラン選手は国内の女性に対するスカーフ強制などに抗議して国歌斉唱を拒む。中国ではコロナ対応などの政権による独裁に抗議する市民の抵抗が起こる。ロシアでは自身は安全なところから指図するだけで兵士の死を他人事で済ますプーチンに女性たちが命懸けで声を上げる。
 1日「敬老パス」有効となり、めっぽう寒いなか今年のお湯のそれぞれの入り納めにと、バスと地下鉄ですずらんの湯に行くが、なんと点検のため休業。新神戸まで戻り、北野を降ってMont Doleでピザを頂き、神戸クアハウスに浸かる。帰路阪急地下に寄るとカワハギあり。夜報道1930は国債1411兆円!!の元での「防衛力拡大」の欺瞞を伝える。
 2日夜何気に見ると正平さんのこころ旅の舞台はなんと柳川。懐かしい堀割り沿いの道を進みお花の前から沖端で蒸籠蒸しのあと水天宮まで。ワールドニュースではロシア軍が撤退後ヘルソンに容赦ない国際法違反の砲撃を続け、困窮する市民の様子を伝える。
 昨日三宮に出て栄町通のDay's kitchenで復活したジェノベーゼピザ。通りのテラスでコンビニコーヒーのあと道を行くとファーマーズマーケット開催中で、有機のほうれん草を購入。廉価な花店潤でシクラメン三鉢買い帰宅。今日は曇りでひたすら寒く巣篭もり。











2022年12月 3日
「男女平等は絶対に実現しえない、反道徳の妄想だ」2014年衆院本会議 「女性差別は存在していない」2014年国会質問 
「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」2018年月刊誌「新潮45」8月号
「彼女の場合はあきらかに、女としても落ち度がありますよね。男性の前でそれだけ飲んで、記憶をなくしてっていうようなかたちで。日本の司法に対する侮辱。日本の警察、世界で一番優秀」BBC「Japan's Secret Shame(日本の隠された恥)」2018年6月28日
「(2016年2月国連女性差別撤廃委員会について)目の前に敵がいる! 大量の左翼軍団です」「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」「彼らは、存在だけで日本国の恥晒さらしです」2018年2月ブログ(現在は削除)
「内閣の一員としてそれ(総務相の指示)に従い、傷つかれた方々に謝罪し、そうした表現を取り消す」2日参院予算委員会
「内閣の一員になる前の言動には、政治家自身が政治の信頼のために説明責任を果たし、適切に対応してもらわなければならない」「職責を果たすだけの能力を持った人物と判断した。政府の方針に従って職務に専念してもらう」岸田首相
「会場には女性の権利向上を目指してNGOや当事者団体が集まっていた。そうした人々を十把ひとからげに『左翼』と攻撃し、おとしめた。とんでもない曲解で今も悔しい」当時参院議員だった糸数慶子氏
「ブログの表現は差別やヘイトスピーチでなくて何なのか。今もブログが読めることも問題。こうしたアイヌを差別する記事をネタにして、ネトウヨはヘイトスピーチを繰り返してきたからだ」所属する札幌アイヌ協会の会員たちと民族衣装を着て参加した多原良子氏
「アイヌが民族衣装を着ることは、文化的なアイデンティティーの表現だ。コスプレという杉田氏の表現は不適切で、事実誤認がある。今後も放置したままなら、アイヌなど少数民族への差別を故意に発信していると捉えられても仕方ないのではないか」北海道大アイヌ・先住民研究センター長の加藤博文教授(先住民考古学)
 1899年制定の「北海道旧土人保護法」の差別を克服し、1994年国会議員となった萱野茂さんらの尽力によって1997年に制定された「アイヌ文化振興法」ののち、2007年に国連において「先住民族の権利に関する宣言」が採択され翌年の国会で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が実現。2019年4月19日に国会で成立した「アイヌ新法」正式名称は「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」は、アイヌの人びとを日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族であるとの認識のもと、アイヌの人びとの誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進について国や自治体が責務を負うことを定めている。
 杉田の発言は韓国・朝鮮に対する謂れなき差別であるとともに、この国を歴史的・文化的に形成してきたアイヌの人々に対するあからさまな蔑視に他ならない。女性や性的マイノリティーそして性犯罪被害者に対する愚劣極まるバッシングと共に、品格も知性も全く欠落し悪質極まる差別と偏見をこの日本社会に撒き散らすだけの、まさに「日本国の恥晒さらし」なのは他ならぬ杉田本人だ。
 こうした愚か極まる人物を衆院選比例一位とし、当選させたのはカルトと癒着した安倍元首相らであり、法務省、内閣府と共に「人権擁護に関する世論調査」の実施など「男女の人権尊重の理念と法律・制度の理解促進及び救済・相談の充実」を担う総務省(https://www.gender.go.jp/.../html/honpen/b2_s10_02.html)として最も不適格な者を政務官に任命したのは岸田首相。自らの度重なる差別発言の言い訳をするのが政務官の仕事ではない。
 政務官も比例代表衆議員もまったく不適格。即刻辞職させ、首相も「職責を果たすだけの能力を持った人物と判断」とは、更迭した三閣僚の任命も含めて、その判断能力が欠如しているということ。自らの任命責任を負って辞職すべし。
《杉田水脈みお総務政務官が過去のブログでアイヌ民族などを侮辱していたことが、新たに国会で取り上げられた。杉田氏は性的少数者や性暴力被害者に対する表現でも批判を浴びており、マイノリティーや弱者への感覚にいっそう疑問が強まる。アイヌなどから憤りの声が上がるものの、岸田文雄首相は更迭しない意向のようだ。このままでいいのか。(特別報道部・中山岳)
【関連記事】杉田水脈氏はなぜ「重用」され続けるのか 弱者に攻撃繰り返し、自民党は黙認 <寄稿・小川たまかさん>
◆「当時、私は一般人だった」と釈明
 「あまりにひどい内容なのでパネルにできず、紙の資料でお配りしています」。11月30日の参院予算委員会。立憲民主党の塩村文夏氏はこう切り出し、杉田氏のブログを紹介した。
 ブログは、2016年2月にスイスのジュネーブで開かれ、自身が足を運んだ国連女性差別撤廃委員会が題材だった。「目の前に敵がいる! 大量の左翼軍団です」と記載。参加したアイヌや在日コリアンを「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」とやゆした。
 さらに、参加団体の記者会見を聞こうとしたところ、囲まれて拒否されたとし「彼らは、存在だけで日本国の恥晒さらしです」などとつづった。
 答弁で杉田氏は自ら書いたと認め、「100人ぐらいの方々が取り囲んで、至近距離で罵声を浴びせられた。当時、一般人だった私がこのような感想を持つのは仕方がなかった」と釈明。塩村氏は「人権感覚があるのか疑わしい」と語気を強めた。
◆勝手に入って無断撮影したら「罵声を受けた」?
 当時の参加者たちからも、批判の声が上がる。
 ブログで名前を取り上げられた、当時参院議員だった糸数慶子氏は「会場には女性の権利向上を目指してNGOや当事者団体が集まっていた。そうした人々を十把ひとからげに『左翼』と攻撃し、おとしめた。とんでもない曲解で今も悔しい」と怒りをにじませる。
 「罵声を受けた」との杉田氏の主張には、「一般公開されていない会議や記者会見に杉田氏らが勝手に入り、無断で参加者を撮影していたので注意されていた」と述べる。
 「ブログの表現は差別やヘイトスピーチでなくて何なのか」と憤るのは、所属する札幌アイヌ協会の会員たちと民族衣装を着て参加した多原良子氏だ。「今もブログが読めることも問題。こうしたアイヌを差別する記事をネタにして、ネトウヨはヘイトスピーチを繰り返してきたからだ」
 北海道大アイヌ・先住民研究センター長の加藤博文教授(先住民考古学)は「アイヌが民族衣装を着ることは、文化的なアイデンティティーの表現だ。コスプレという杉田氏の表現は不適切で、事実誤認がある」と指摘する。
 19年施行のアイヌ施策推進法(アイヌ新法)では「アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される」ことがうたわれている。こうした点も踏まえ、加藤氏は、杉田氏がブログの記事を撤回しないことにも疑問を呈する。「今後も放置したままなら、アイヌなど少数民族への差別を故意に発信していると捉えられても仕方ないのではないか」
◆続投させてもプラスにならないが…
 参院予算委で塩村氏は政務官を更迭するべきだと岸田首相に迫ったが、首相は「内閣の一員になる前の言動には、政治家自身が政治の信頼のために説明責任を果たし、適切に対応してもらわなければならない」と述べるにとどまった。
 杉田氏を巡り、たびたび国会が紛糾しても岸田首相が続投させるのはなぜか。
 政治アナリストの伊藤惇夫氏は「寺田稔総務相の更迭など3閣僚が交代し、政権の体力は奪われている。杉田氏の続投はプラスではないものの、何としても4人目は避けたいのだろう」と指摘。「杉田氏の答弁は質問の趣旨をねじまげたような内容も目につく。野党による追及は続くだろう。岸田首相は遠くない時期に内閣改造で交代させることも考えているのではないか」》





                                                                                                                                                                 
  
     





























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